Vol.149 「スカウト」光州人の視点で描く1980.5.18 [韓国映画]
「スカウト」という作品が、すばり「5.18光州事件」を描いた映画だなんて、まったく予想していなかった。映画が終わり、エンドクレジットが流れる頃、がーん、と頭を殴られたような衝撃がやって来る。
2007夏に韓国で公開された「華麗なる休暇」は大ヒットになった。最近韓国映画の奈落ぶりを悲観的に報道するマスコミも、「韓国映画復活!」と大騒ぎだ。私もこんなにヒットするとは予想外だったが、映画自体は、あまり感心できない内容だった。
私は韓国人でもないし、光州の人間でもないから、彼らのじくじくたるものを知ることは難しい。いや、無理だ。でも、この「華麗なる休暇」を観たとき、事件を知る、そして事件が起こった地で生まれ育った人々にとっては、部外者が勝手に作った「ふざけた」映画にも見えたのではないか?
ある日、光州生まれ、光州育ちの知人からメールが届く。
「『スカウト』は必ず観てください」
この映画って、野球選手を巡る懐古コメディじゃないの?と思いつつも劇場に足を運ぶ。
ただし、監督が「クァンシクの弟クァンデ」のキム・ヒョンソクなので興味はあった。主演のイム・チャンジョンも好きな韓国の俳優だ。日本では完全無視されているけど。
映画はキム・ヒョンソクらしく、ベタでドメスティックなように見えながら、洗練されていて、集団の絡みは、いつものことながら非常にうまい。だが、それとは別に、映画は物語進行の時間をどういうわけか、5月10日、5月11日といった具合に字幕で説明していく。
そしてある時点で重要なことに気がついた。そう、この映画の日時表記は、1980年5月の光州5.18に向けてカウント・ダウンをしていたのだ。
映画は5月18日そのものは直接描かない。が、光州事件が起こる何年も前から吹き起こっていた民主化運動を重要な背景として進んでゆく。野球選手のスカウト合戦なんて、実は表向きの偽装にしか過ぎないのだ。
特に、主人公ホジャンとその恋人だったソヨンが別れるきっかけになったあるエピソードは、光州事件が光州人同士の闘いでもあったことを赤裸々に訴え、愕然とさせられた。
「華麗なる休暇」は、5月18日に何が起こったのか?を第三者が描いた物語であったとすれば、この「スカウト」は、外部者にはわからない光州事件の真実を、光州人が自分たちの視点で描こうと試みた作品だったのかもしれない。
映画が終わりに差しかかる頃、「『スカウト』は必ず観てください」という知人の言葉の意味がぐっと重くのしかかってくる。5月18日当日、画面に出てくるのは、フレームの隅を横切るM48戦車だけだ。でも、余計な銃声や怒涛の叫び声なんかよりも、当時の空気を重く伝えてくる。
もし、日本で「華麗なる休暇」を上映するのだったら、この「スカウト」は、なんらかの形で日本で紹介するべき、いや、紹介しなくてはいけない作品だ。
「懐かしの庭」や「華麗なる休暇」を観て、韓国の現代史に関心をもたれた方にとって、この「スカウト」は必見作なのだ。
そしてこの映画は、意外なところで日本と深く繋がっているのである。
두루미 필름
CJ 엔터테인먼트
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