Vol.326 ロボット・テコンV第3弾『水中特攻隊』を観る [韓国映画]
世間では賛否両論あるけれど、『ロボット・テコンV』が韓国のアニメーション史、いや韓国映画史、異彩を放つ金字塔であることに異を唱える人はあまりいないと思う。
このシリーズを、「日本の作品のパクリ」だとか「日本の下請けやっていたことを悪用した作品」と罵る人がいるのは仕方ないが、少なくとも最初の四作目までは、そういった問題を越えたオリジナルの魅力が十分ある。
「四作目」までと限定しているのは、1980年代になってから明らかに露骨なマーチャンダイズ連携のルーティンワークと化して面白くなくなったからだ。
当局による制限や世論の偏見も大きかっただろうけど、無難な作品群になってしまったので個人的には五作目以降は無視している。
だが、残念なことに、この重要な四作品の中でまともに鑑賞できる、入手出来るのは第一作の『ロボット・テコンV』と第四作目『ロボット・テコンVと黄金翼の対決』だけである。
第二作目『宇宙作戦』はスペイン語版の立派なDVDで発売されているが、よほど気合いが入った人じゃないと持っていない。
昔は、これらの作品群のDVDが存在していたらしいが、十年以上前から入手できない状態だ。
そんな中、第三作『水中特攻隊(수중특공대)』を鑑賞することができた。
オリジナルはVTRだが、原版のプリント自体が壮絶な状態。
だが、シーンの欠如や音声の飛びはあまりなく、大体どういう作品かを知るには十分であった。
まず、第一作目と比べた時の印象は次の通り。
●内容が非常に地味
●レイアウトや絵コンテがより洗練されている
●原画が格段に向上した(特にキーキャラ)
●日本のキャラクターデザインをかなり流用している(昔の韓国アニメでは毎度おなじみですが…)
つまり、技術的、演出的完成度からいえば、第一作目よりもレベルは高くなっているが作風が日本のスタイルにより近くなり、韓国の作品というよりも日本のロボットアニメみたいになっている。
でも、それは当然といえば当然のことで、この作品が製作された時分は、日本の東映アニメーションが、一括して韓国の会社にたくさんの下請けを出していた時期と重なるからだ。
テコンVシリーズのどれかはラフ・コンテを日本のスタッフが描いていたらしいが、もしかしたら、そうなの?と思わせる雰囲気がこの『水中特攻隊』にはある。
物語は前作の続きというよりパラレル物という感じ(一応続編ではあるが独立した物語)で、テコンVが海洋牧場を管理運営する国際的な海洋研究所兼海洋パトロール基地に配属され、謎の水中種族と戦う話である。
この水中種族の設定も平和を望む人魚族と好戦的な半漁人族の対立からエピソードが始まり、そこに人魚族のお姫様リリアと主人公キム・フンのプラトニック・ラブが絡むという内容だ。
そして、差別や格差の問題がこの作品でも提示されている。
『ロボット・テコンV』シリーズお約束の「キム・フンお山のむちゃくちゃな修行シーン」が無いのも特徴だろう。
キム・フンも少年というより青年になっており、相棒のカンドン・ロボット小僧や美少女ユリも、より大人びたデザインになっている。
演出は人間ドラマに重点を入れたものになっていて、登場人物たちの表情を捉えた寄りのカットが増えており、原画もかなり腕の良いスタッフを集めたらしくキャラの崩れは少ない。
だからキム・フンやユリはひたすらカッコよく、アクションやメカは総じて地味でもトンデモ度が低い。
グレンダイザーのパチモンと非難されそうなユニットとテコンVが合体して海中で活躍するが、これは理にかなった設定だし、敵の戦術にはまり落盤に閉じこめられたテコンVがこの貴重なユニットを犠牲にして脱出するところなんかはかなりシビアな展開だ。
人魚姫リリアも最初は頭が足りないキャラに見えるが、それは彼女が人間世界の事情を知らないだけであって、キム・フンたちと暮らす中で少しずつ変わってゆく様子がきちんと描かれているし、彼女のキャラデザインも韓国ではちょっと珍しい。
映画の最後はお約束の敵巨大メカとの決戦だが、敵を倒しても決して全て丸く収まるわけではなく悲劇的な結末である。
キム・ヒョンベ(=김형배)漫画版ではこの部分が一層誇張されて描かれているので、読後重い余韻を残す。
総じて地味でケレン味に欠ける作品ではあるけれど、大人の鑑賞に耐えうるドラマ性があり、原画や演出の質の高さなど、高く評価すべき部分が幾つもある。
この時代、韓国は厳しい軍事政権下であり、映画やアニメその他サブカルチャーが停滞を余儀なくされた時期であることを考えれば、ちゃんと復元して公開すべきだろう。
そして当時のクリエイターからすれば、無念さもまた漂う作品なのかもしれない。
※この『水中特攻隊』は、公式ではプリントが二本現存していることになっている。第二作『宇宙作戦』も、個人所有でまともなプリントが韓国国内に存在しているとのことである。
このシリーズを、「日本の作品のパクリ」だとか「日本の下請けやっていたことを悪用した作品」と罵る人がいるのは仕方ないが、少なくとも最初の四作目までは、そういった問題を越えたオリジナルの魅力が十分ある。
「四作目」までと限定しているのは、1980年代になってから明らかに露骨なマーチャンダイズ連携のルーティンワークと化して面白くなくなったからだ。
当局による制限や世論の偏見も大きかっただろうけど、無難な作品群になってしまったので個人的には五作目以降は無視している。
だが、残念なことに、この重要な四作品の中でまともに鑑賞できる、入手出来るのは第一作の『ロボット・テコンV』と第四作目『ロボット・テコンVと黄金翼の対決』だけである。
第二作目『宇宙作戦』はスペイン語版の立派なDVDで発売されているが、よほど気合いが入った人じゃないと持っていない。
昔は、これらの作品群のDVDが存在していたらしいが、十年以上前から入手できない状態だ。
そんな中、第三作『水中特攻隊(수중특공대)』を鑑賞することができた。
オリジナルはVTRだが、原版のプリント自体が壮絶な状態。
だが、シーンの欠如や音声の飛びはあまりなく、大体どういう作品かを知るには十分であった。
まず、第一作目と比べた時の印象は次の通り。
●内容が非常に地味
●レイアウトや絵コンテがより洗練されている
●原画が格段に向上した(特にキーキャラ)
●日本のキャラクターデザインをかなり流用している(昔の韓国アニメでは毎度おなじみですが…)
つまり、技術的、演出的完成度からいえば、第一作目よりもレベルは高くなっているが作風が日本のスタイルにより近くなり、韓国の作品というよりも日本のロボットアニメみたいになっている。
でも、それは当然といえば当然のことで、この作品が製作された時分は、日本の東映アニメーションが、一括して韓国の会社にたくさんの下請けを出していた時期と重なるからだ。
テコンVシリーズのどれかはラフ・コンテを日本のスタッフが描いていたらしいが、もしかしたら、そうなの?と思わせる雰囲気がこの『水中特攻隊』にはある。
物語は前作の続きというよりパラレル物という感じ(一応続編ではあるが独立した物語)で、テコンVが海洋牧場を管理運営する国際的な海洋研究所兼海洋パトロール基地に配属され、謎の水中種族と戦う話である。
この水中種族の設定も平和を望む人魚族と好戦的な半漁人族の対立からエピソードが始まり、そこに人魚族のお姫様リリアと主人公キム・フンのプラトニック・ラブが絡むという内容だ。
そして、差別や格差の問題がこの作品でも提示されている。
『ロボット・テコンV』シリーズお約束の「キム・フンお山のむちゃくちゃな修行シーン」が無いのも特徴だろう。
キム・フンも少年というより青年になっており、相棒のカンドン・ロボット小僧や美少女ユリも、より大人びたデザインになっている。
演出は人間ドラマに重点を入れたものになっていて、登場人物たちの表情を捉えた寄りのカットが増えており、原画もかなり腕の良いスタッフを集めたらしくキャラの崩れは少ない。
だからキム・フンやユリはひたすらカッコよく、アクションやメカは総じて地味でもトンデモ度が低い。
グレンダイザーのパチモンと非難されそうなユニットとテコンVが合体して海中で活躍するが、これは理にかなった設定だし、敵の戦術にはまり落盤に閉じこめられたテコンVがこの貴重なユニットを犠牲にして脱出するところなんかはかなりシビアな展開だ。
人魚姫リリアも最初は頭が足りないキャラに見えるが、それは彼女が人間世界の事情を知らないだけであって、キム・フンたちと暮らす中で少しずつ変わってゆく様子がきちんと描かれているし、彼女のキャラデザインも韓国ではちょっと珍しい。
映画の最後はお約束の敵巨大メカとの決戦だが、敵を倒しても決して全て丸く収まるわけではなく悲劇的な結末である。
キム・ヒョンベ(=김형배)漫画版ではこの部分が一層誇張されて描かれているので、読後重い余韻を残す。
総じて地味でケレン味に欠ける作品ではあるけれど、大人の鑑賞に耐えうるドラマ性があり、原画や演出の質の高さなど、高く評価すべき部分が幾つもある。
この時代、韓国は厳しい軍事政権下であり、映画やアニメその他サブカルチャーが停滞を余儀なくされた時期であることを考えれば、ちゃんと復元して公開すべきだろう。
そして当時のクリエイターからすれば、無念さもまた漂う作品なのかもしれない。
1977年7月20日公開/75分/製作 유프로덕션
※この『水中特攻隊』は、公式ではプリントが二本現存していることになっている。第二作『宇宙作戦』も、個人所有でまともなプリントが韓国国内に存在しているとのことである。
通りすがりの者です。一年ちょっと前くらいから「テコンV」に興味を持ち、色々と調べている者です。
「水中作戦」は韓国の動画サイトで観ました。韓国語がわからないので、紹介記事を頭に入れて脳内補完しながらの視聴でしたが(苦笑)。
前半のシーンは子供の頃観た海洋冒険モノのアニメを彷彿とさせられました。言われてみると確かに東映動画の雰囲気ですよね。
テコンVは第一作とスーパー、84と、この水中特攻隊を観ていて、総じて悲劇的要素があるのですが(特に「スーパー」のジョン親子のエピソードはベタすぎて泣けます。セリフわからないのに。)、韓国では当作品が「テコンV史上最大の悲劇」とされているらしいだけに、いずれ翻訳版が観られる日がくれば…と思います。
韓国語をマスターする方がよっぽど現実的ですけどね…
by Dr.whoon (2011-01-16 17:46)
『テコンV』シリーズを含んだ、韓国製アニメをきちんと評価し分析できる立場にいるのが実は日本人なんじゃないかとよく思います。当時の事情を知るスタッフが次々と鬼籍に入っているいま、早急な研究や評価が望まれますので、ガンガン、テコンVを追っかけて下さい(笑)。同シリーズ影の立役者というか、デザインワークを含め本質的な方向性を決定づけたのは故ユ・ヒョンモクだったのではないかと考えているのですが、結局、日本の研究者が誰も彼にきちんとインタビューをとれなかったこと(もしくは発表できないこと)は心底残念であり、大きな損失だったと思います。かの国の言葉や事情がわからないことも、決して不利ではないと思いますよ。
by さるすべり (2011-01-19 19:23)