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Vol.350 ソウル、夜中に彷徨う [韓国生活]

 ソウルに出向いたその日、友人に電話を掛けたら「翌日以降は出かけちゃっていない」という返事が返って来た。
 「しょうがねーや」と思ったが、「今日は他の友だちが夜、家に来るから、一緒に食事でもどう?」と誘われる。
 そこには一度行っているので大丈夫、とタカを括って赴いたのが、間違いの始まりだった。

 その家は、ソウル・江北某所にある。
 お金持ちや、芸能業界関係者ばかりが住む高級住宅街だが、日本では想像が難しいような小高い急斜面に、豪邸が立ち並んでいる。
 韓国では金持ち、というと、どういう訳か山の急な斜面に住んでいる人が多い。
 高級ホテルが建つ場所もそうだし、日帝時代には日本人高級官僚の家はこうした小高い山の上にあったという。

 もちろん、それは文化の違いだから別にいいのだが、物理的に、とても徒歩で行くような傾斜ではないのである。
 毎日、この坂を登り降りしていたら、健康になりそうな気もするが、歳をとったら、逆に体を壊しそうなくらいキツく長い坂が続く。
 つまり、自動車で移動することが前提になっているわけだ。

 登っても登っても、目的の家が見つからない。
 途中、もろ芸能人の家まであったりして、汗だくだくで、山頂まで来てしまうが、そこには記憶のない風景が広がっているだけだった。

 ひぇー。
 最初に曲がる道を間違えた。

 一旦、戻るのが一番いいのだろうけど、体力が持ちそうにない。
 それなら、どうせ山の上にあるのだから、稜線をつたえば辿り行けるだろう、と思ったのが、さらなる間違いだった。

 気が付いたら、別の集合住宅敷地に迷い込んでいる。
 狭いコミュニティなので、管理人も敷地を行き交う人も、すれ違った人には必ず挨拶をするルールになっていたりする。

 ウォーキングをしていた初老の男性が、ゼーゼー荒い息でウロウロしている私の様子を見て、不審に思ったのか、声をかけて来た。
 ラッキー!渡りに船、というわけで、その人に電話をかけてもらい、友人に近くの公園まで迎えに来てもらうことにする。

 こういうことに関しては、ソウルの人は基本的に、とっても親切である。
 場所が場所だったということもあるけれど(みんなお金持ちですから)…

 怪我の功名とでもいうのだろうか、穴場とでもいうべき、絶景の場所を途中で見つけた。
 カメラ小僧なら、垂涎の場所だろう。

 南山を正面に据え、麓には街の灯りが拡がり、さらにそれを包み込むように深い森の情景がフレーミングされている。
 夜景のみならず、早朝や陽が沈む時間帯なんかでも、美しい絵が見られそうだ。
 迷子というのも、「発見」という点では、決してマイナスばかりではない、ということである。

 友人に車で拾ってもらい、目的地に到着。
 先に来ていた人達を紹介してもらう。
 ヘン可愛いキャラの女性がいて面白かったので、仕事は何をやっているの?と聞いてみると、新規開店予定のカフェの店長、今週末の準備で、てんやわんやという。
 でも、先日、正社員が二名も突然辞めてしまってと、愚痴をこぼす。
 韓国は日本以上に、就職は難しいと思うんだけど、相変わらずのようだ。

 友人の手料理をごちそうになり、しばし歓談した後、お開き、車で地下鉄「景福宮駅」まで送ってもらう。
 帰り際、先ほどの女性が無邪気に手を振ってくれた。
 こういうところが、韓国人女性は、可愛いとは思う。

 それほど遅い時間ではなかったが、方向的に既に終電、タクシーを使うほどでもないので、徒歩で宿まで向かうことにする。

 ここ数年、ソウルはゼネコンが大活躍、大改装中だ。
 しかし、今も昔も、夜中の街を歩いてみれば、誰もいなかったりする。

 でも、それがいい。
 こういう暗黒は落ち着くので私は大好きだ。

 東京はどこに行っても人と車が行き交っている。
 つまり、東京は「面」で人が蠢いているが、ソウルは「点」でしか、人が蠢いていないのである。

 地元の人に言わせると、危ないところは危ないので、女性にはお薦めしないけど、真っ暗な方が逆に安全という説もあるくらいだから、こういう楽しみもまた、いいものだ。
 
 早朝と夜中のソウルには、昼間では想像もできない魅力がある。
 焼肉と不味い焼酎をたらふく飲んで、朝っぱらからゲロ吐いている日本人をホテルでよく見かけるけれど、それは損をしているのかもしれない。
 
 明日、早いんだよね…と思いつつ、素敵な闇の中を宿に向かうのだった。

kanfuxa2.jpg
実際は漆黒の闇です。


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