Vol.380 チャン・ジンの「どこまでやるの?」 『서툰 사람들(不器用な人々)』 [韓国カルチャー]
去る2012年2月11日から5月28日まで、恵化にある동숭아트센터で、チャン・ジンが手がける舞台、『서툰 사람들(不器用な人々)』が上演された。
동숭아트센터では、演劇イベント『연극열전4』第一弾である『리턴 투 햄릿』が、途中まで並行上演されていたから、まさにチャン・ジン乱れ打ちである。
『리턴 투 햄릿』は地味目のキャスティングだったが、『서툰 사람들(不器用な人々)』は打って変わって、김병옥に정웅인、예지원に류덕환と、メジャーなスター勢揃いだ。
劇場も동숭아트센터の5階にある小劇場の方だから、連日大賑わいだったらしい。
一週間くらい前に予約を申し込んだが、既に希望日時は空きが無く、日にちをずらしたくらいであった。
今回は私好みのキャストがぞろぞろ出ているので、どの回がいいか迷ったが、김병옥と류덕환が出演している回を選ぶ。
예지원の舞台もぜひ観たかったが、一番の目的は、生の류덕환だ。
当日、パッと見でどこにあるのか、わかりにくいエレベーターで五階にある小劇場に向かうと、入場待ちの観客たちで熱気ムンムン状態。
中に入れば、ビルの一角に無理やり作ったような劇場だが、舞台と席の距離が近い上、座席に段差が設けられているので見やすく、どの席でもあまり損しない設計になっている。
地下にある동숭홀も観やすい劇場だが、小劇場の方はもっと観やすくて、こういうところが、동숭아트센터のいいところである。
舞台は集合住宅にある、若い女性の部屋を模したセットで、なかなか生活感が出ていてリアル、実際、韓国都市部の暮らしって、こんなもんである。
地味かもしれないが、美術チームは、なかなか、いい仕事をしていると思った。
物語はシンプルだ。
登場人物は約5人だが、キャストは3人。
김병옥は3役を演じるが、中心は심영은演じる유화이と、류덕환演じる장덕배の「서툰」な掛け合いだ。
俳優たちが四六時中、舞台をドタバタ走り回ってはいるものの、ひねりも何もない、かなり地味な戯曲で、そのベタなドラマを観ていると、何度もデジャブに襲われる。
「そーだ、これは『欽どこ』だ!」
韓国ではよくあることだが、この舞台もまた、いにしえの日本におけるバラエティー番組の香りが漂う。
冒頭、ヒロイン화이が「シンドイよ~、シンドイよ~」と青息吐息で登場、そのあまりのシツコさに笑ってしまうが、彼女の素性が明らかになると「なるほどね」と納得だし、強盗덕배の善人ぶりもまた、彼がなんでこんなことをやっているのか、という背景に、韓国社会の抱える問題が潜んでいるのかも、などと深読みしてしまう。
今回、一番の注目株はやっぱり、류덕환だろう。
それほどガタイは大きくないが、小顔なので、スクリーンで観るよりもスラリとした印象だ。
류덕환は、韓国若手スターの中でも逸材の一人だが、舞台の上でも堂々たるもの、そこには余裕すら感じさせ、せわしない舞台に、決して追われていないのは、偉いと思った。
役名が「장덕배」なので、「日本で人気者」ということになっている、某若手スターに引っ掛けたギャグがあるが、류덕환は彼みたいに、日本進出なんて、絶対にしないで欲しいものだ(もちろん、やって行ける実力は十二分にあるけど)。
一方、パク・チャヌク作品に欠かせない個性派김병옥は、3役+αをこなしているが、総じて出番はあまりなく、ちょっと残念だった。
でも、映画で観るのと、印象が全く同じことに、ちょっと驚かされた。
極めて安定した芝居をする俳優で、芸風を固めているというか、貫いているというか、職人的なものを感じさせる。
終わりの方でヒロインの父親役として登場するが、この役柄が一番、彼の地に近いのかもしれない。
でも、最大の収穫は、なんといっても、화이演じた심영은だ。
ワタクシ的には全くノーマークで、興味もなかったのだが、他の二人を差しおいて、とにかくキラキラと輝き、眩いばかり。
等身大の若い女性像を体現しつつ、そこから現代韓国の人間関係や生活といった「リアル」が浮かび上がって来るようだ。
複雑で難しい役だったと思うのだが、演技は堅実で、天然で軽率な화이という大ボケキャラを、魅力的に熱演している。
そんな若い人ではないようだし、美人系というわけでもないのだが、個性と演技力、そして役柄と、すべてがピッタンコだった。
彼女のキャリアを調べて見ると、映画出演は少なくて、基本的には演劇専門の人らしく、写真なんかで観ると、冷徹で性格悪そうな印象を受けるが、舞台の上では、とにかくキュートな人である。
観る前は「예지원が出ていれば完璧だったのに…」と思っていたが、結果的には심영은の舞台で大正解だった。
これだから、大学路の演劇は侮れない。
観る側としては、博打要素も大きいけど、今回は、韓国演劇界の妙な奥深さを改めて認識させられる舞台だった。
동숭아트센터では、演劇イベント『연극열전4』第一弾である『리턴 투 햄릿』が、途中まで並行上演されていたから、まさにチャン・ジン乱れ打ちである。
『리턴 투 햄릿』は地味目のキャスティングだったが、『서툰 사람들(不器用な人々)』は打って変わって、김병옥に정웅인、예지원に류덕환と、メジャーなスター勢揃いだ。
劇場も동숭아트센터の5階にある小劇場の方だから、連日大賑わいだったらしい。
一週間くらい前に予約を申し込んだが、既に希望日時は空きが無く、日にちをずらしたくらいであった。
今回は私好みのキャストがぞろぞろ出ているので、どの回がいいか迷ったが、김병옥と류덕환が出演している回を選ぶ。
예지원の舞台もぜひ観たかったが、一番の目的は、生の류덕환だ。
当日、パッと見でどこにあるのか、わかりにくいエレベーターで五階にある小劇場に向かうと、入場待ちの観客たちで熱気ムンムン状態。
中に入れば、ビルの一角に無理やり作ったような劇場だが、舞台と席の距離が近い上、座席に段差が設けられているので見やすく、どの席でもあまり損しない設計になっている。
地下にある동숭홀も観やすい劇場だが、小劇場の方はもっと観やすくて、こういうところが、동숭아트센터のいいところである。
舞台は集合住宅にある、若い女性の部屋を模したセットで、なかなか生活感が出ていてリアル、実際、韓国都市部の暮らしって、こんなもんである。
地味かもしれないが、美術チームは、なかなか、いい仕事をしていると思った。
物語はシンプルだ。
ある真冬の夜。というお話。
疲労困憊して仕事先から帰宅した独り暮らしヒロイン、유화이が、寂しく酒を飲みながらTVドラマを観ていると、そこに若い強盗장덕배が突然押し入ってくる。
だが、根が善人の덕배は、天然でマイペースな화이に逆に振り回されてしまう。
二人が延々とトンチンカンなやりとりを続けるうちに、次々にご近所の変人たちが家にやって来て、しまいには화이の父親までが現れて大騒ぎ。
だが、都会に暮らす孤独な者同士でもある화이と덕배の間には、本当の恋が芽生え始める…
登場人物は約5人だが、キャストは3人。
김병옥は3役を演じるが、中心は심영은演じる유화이と、류덕환演じる장덕배の「서툰」な掛け合いだ。
俳優たちが四六時中、舞台をドタバタ走り回ってはいるものの、ひねりも何もない、かなり地味な戯曲で、そのベタなドラマを観ていると、何度もデジャブに襲われる。
「そーだ、これは『欽どこ』だ!」
韓国ではよくあることだが、この舞台もまた、いにしえの日本におけるバラエティー番組の香りが漂う。
冒頭、ヒロイン화이が「シンドイよ~、シンドイよ~」と青息吐息で登場、そのあまりのシツコさに笑ってしまうが、彼女の素性が明らかになると「なるほどね」と納得だし、強盗덕배の善人ぶりもまた、彼がなんでこんなことをやっているのか、という背景に、韓国社会の抱える問題が潜んでいるのかも、などと深読みしてしまう。
今回、一番の注目株はやっぱり、류덕환だろう。
それほどガタイは大きくないが、小顔なので、スクリーンで観るよりもスラリとした印象だ。
류덕환は、韓国若手スターの中でも逸材の一人だが、舞台の上でも堂々たるもの、そこには余裕すら感じさせ、せわしない舞台に、決して追われていないのは、偉いと思った。
役名が「장덕배」なので、「日本で人気者」ということになっている、某若手スターに引っ掛けたギャグがあるが、류덕환は彼みたいに、日本進出なんて、絶対にしないで欲しいものだ(もちろん、やって行ける実力は十二分にあるけど)。
一方、パク・チャヌク作品に欠かせない個性派김병옥は、3役+αをこなしているが、総じて出番はあまりなく、ちょっと残念だった。
でも、映画で観るのと、印象が全く同じことに、ちょっと驚かされた。
極めて安定した芝居をする俳優で、芸風を固めているというか、貫いているというか、職人的なものを感じさせる。
終わりの方でヒロインの父親役として登場するが、この役柄が一番、彼の地に近いのかもしれない。
でも、最大の収穫は、なんといっても、화이演じた심영은だ。
ワタクシ的には全くノーマークで、興味もなかったのだが、他の二人を差しおいて、とにかくキラキラと輝き、眩いばかり。
等身大の若い女性像を体現しつつ、そこから現代韓国の人間関係や生活といった「リアル」が浮かび上がって来るようだ。
複雑で難しい役だったと思うのだが、演技は堅実で、天然で軽率な화이という大ボケキャラを、魅力的に熱演している。
そんな若い人ではないようだし、美人系というわけでもないのだが、個性と演技力、そして役柄と、すべてがピッタンコだった。
彼女のキャリアを調べて見ると、映画出演は少なくて、基本的には演劇専門の人らしく、写真なんかで観ると、冷徹で性格悪そうな印象を受けるが、舞台の上では、とにかくキュートな人である。
観る前は「예지원が出ていれば完璧だったのに…」と思っていたが、結果的には심영은の舞台で大正解だった。
これだから、大学路の演劇は侮れない。
観る側としては、博打要素も大きいけど、今回は、韓国演劇界の妙な奥深さを改めて認識させられる舞台だった。
コメント 0