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Vol.387 『パタパタ(파닥파닥)』 それは抗う鯖の物語 [韓国映画]

サバ1.jpg
『花開くコリア・アニメーション2014』にて公開
(3月7日から大阪・東京・名古屋で順次開催予定)
(STORY)
 サバ(声:김현지)は漁船に捕獲され、気が付いた時には港の市場にいた。
 そこで脱出を図るが失敗、刺身屋の親父(声:시영준)に拾われ、海辺にある店の水槽に入れられてしまう。
 だが、そこは目の前で捌かれ、食べられるのを待つだけの、生き地獄だった。
 サバが入れられた水槽は、牢名主同然のヒラメ(声:시영준)の下、アナゴ(声:이호산)やタイ(声:안영미)、スズキ(声:이호산)にイシダイ(声:현경수)、アイナメ(声:안영미)たちが冷酷なヒエラルキー統制によって暮らしていた。
 人間の客が来れば死んだふりをしてその場を凌ぎ、弱った新入りが来れば、殺して食べてしまう。
 古参ヒラメの命令は絶対であり、一日でも長く生き延びるために、決して目立ってはいけないのだ。
 だが、サバは傷つきながらも、何度も脱出を試みる。
 彼は水槽の秩序を犯す存在だったが、殺される危険を犯してでも逃げる希望を諦めないその姿は、徐々に周りを変えてゆくが、サバを待ち受ける運命は残酷だった…
 2012年7月25日、韓国で一般公開されたアニメーション作品『파닥파닥』はポスターだけ見ると、まるでディズニー&ピクサーの『ファインディング・ニモ』韓国版のようだ。

 私もてっきり、夏休みにおける家族層狙いの作品かと思って劇場に赴いたのだが、上映場所は、アート系シアターばかり。
 なぜだろうと思って映画を観るが、始まってからすぐ、その理由が分かる。
 そう、この『파닥파닥』は家族連れの期待を逆なでするかのような、残酷で哀しい物語なのだ。

 リアリズム志向の映像はディティールが凝っていて、水槽の中にいる魚たちの視点に徹しているが、これがまた、シビアで夢も希望もない。

 そこでの暮らしは、自分も含め、突然仲間が連れ去られ、目の前で解体されて、生きながら食べられてしまう様を毎日、死ぬまで観ていなくてはならないのである。

 水槽の魚たちも、助け合うどころか、醜悪なヒエラルキーの中で日々を過ごしている。
 その関係は歪んでいて、仲間殺しやリンチが平然と行われる。

 この作品は『ファインディング・ニモ』の如くマーケティングが展開されたが、家族連れからクレームが殺到したという。
 だが、それもまた、ヘンな話であり、よくある韓国社会におけるアニメーションへの偏見が大きな原因であって、作品の責任では決してないはずだ。

 なぜなら、この『파닥파닥』は、残酷さ故に感動的であり、教訓に富んだ作品になっているからだ。
 そして、韓国映画伝統の「シュール&グロテスク」を立派に引き継いだ、作家性の濃い作品でもある。

 2011年は、韓国アニメーション作品『마당을 나온 암탉』と『돼지의 왕』が韓国内でヒットしたが、この『파닥파닥』もまた、それら作品群のシビア路線にあり、シュールという点では、韓国的なものを更に突き詰めた作品といえるかもしれない。

 あえてネタバレを書くが、主人公のサバは結局、海に逃げることに失敗して物語は終わる。

 無謀な脱出のたびに、体も精神もボロボロになって行き、最後はその努力が実らない結末は非常に酷いが、サバの無鉄砲でひたむきな姿は、ひねて冷酷になってしまった水槽の仲間たちを大きく変えてゆくのである。

 最後、凶悪そのものにしか見えなかった古参のヒラメが、サバによって変わってゆく姿はワンパターンではあるが、この作品における唯一の救いかもしれない。

 ヒラメが海へ脱出を図った際、脳裏に「もう少し、もう少しだよ」という響くサバの囁きは、現代を生きる大人たちへの励ましにも、その逆にも思える。

 そして、海に飛び込む直前、刺身屋の親父に捕まった時、ヒラメの運命を決める【あるもの】は、サバが遺した抵抗の象徴として、大きな感動を生むことになるのである。

 リベラルな闖入者によって、硬直した保守派が変質して行くという構図は、物語における王道パターンの一つではあるけれども、『파닥파닥』の場合、若者が老いたもの希望の礎となってゆく。

 そこには、家族向けのノーテンキでご都合主義的な展開を見出すことは当然ながら無理であり、監督の이대희も、そんな作品を作るつもりは毛頭なかったのではないだろうか。

 だが、映画に恐怖して泣き叫んだ子供たちの方が、実はクレームを並べた親たちよりも、この『파닥파닥』のテーマを正しく理解していたのかもしれない。

 死への諦観と生き延びる抗い、その相反する壮絶な戦いが、この『파닥파닥』には赤裸々に描かれており、それはまさに、韓国人の何事にも「파이팅」な姿勢の象徴かもしれない(時には、ハタ迷惑ですけどね…)。
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