Vol.499 もしかしたら、漢気あふれる一本だったのかも? 『情愛中毒』 [韓国映画]
『情愛中毒』こと『인간중독』は、2015年五月十四日に韓国で公開された作品である。
日本では同年11月22日に、こっそりと地味に公開された。
原題はまるでゾンビが闊歩するホラー映画のようだが、おそらく韓国内WEBマーケティング対策として妙なタイトルを付けたのではないだろうか。
内容的には日本語タイトルの方が近いが、これだと凡庸過ぎて、今の韓国では埋もれてしまいそうだ。
個人的には興味の無い作品、主演が송승헌なのも観に行くことを躊躇させたが、
1.知人の俳優氏が송승헌の演技を褒めていた
2.1960-1970年にかけての韓国陸軍上層部を描いている
3.映画の日が空いていた
主にこれらの理由で観ることにした。
김대우監督の新作としては残念ながら「下」の出来栄えで、김진평演じた송승헌はともかく、相手役종가흔演じた임지연の演技があまりにもひどいので呆れてしまった。
いくら新人とはいえ、これでは本来なら「完全OUT!」だろう。
彼女は後に、悪評高い韓国内某映画賞で新人女優賞をもらったが、今も「忠武路事情」(※)は相変わらずのようだ。
(※)ここ十年は江南・狎鴎亭・新沙洞事情と言った方が正確かも?
しかし、最大の驚きだったのはそんなことよりも、この作品が軍事政権時代の陸軍将校を主人公にして、その暮らしぶりや主張を表立って描いていたことだろう。
なぜこれが「驚き」なのかと言えば、この階層に属していた人々は今の若い人たちから【自分たちを苦しめている諸悪の根源】として、政治的な吊し上げの対象になっているからだ。
それは言わば、「ポスト日帝時代批判」のようなものであり、「反日」の別バージョンかもしれず、下手を打てば『青燕(청연)』だとか『マイ・ウェイ(마이웨이)』の二の舞いになりかねない因子を抱えたお話なのである。
もちろん、過去における幾つかのヒット作のように朴正煕元大統領を決して英雄として扱わず(かといって悪としても扱わず)、全斗煥元大統領だけをこき下ろすか、暗黙で軍事政権を批判しているように見せかければ、それほど問題にはならないのだけど、この『인간중독』にはそういう偽装が感じられず、真面目に積極的に正直に、昔のコアな軍人たちを悩み多き不完全な「人間」として公平に描こうとしている。
その姿勢は映画の出来とは全く別に高く評価したいのだが、同時に「こりゃあ、最近の韓国ではマーケティング的にヤバイだろう」な映画だったのである。
そして、さらにびっくりしたのは主人公김진평がベトナムに派遣された「猛虎部隊」の幹部という設定であり、劇中「韓国兵が残虐行為をしたのはベトコンがそれを先にやったからだ」といった主旨のセリフを吐いたことだ。
これを今風に言い換えると彼は「軍事政権下で利権を貪った階層」に属する憎むべき人間であり、「朴正煕元大統領&全斗煥元大統領、直接の手下」という悪者であり、「ベトナムで虐殺を行った」恥ずべき当事者、ということでもあって、自称・他称の左派系愛国者が嬉々として罵詈雑言を浴びせそうな「韓国黒歴史」の象徴みたいなキャラなのだ。
だから、この映画を観ている最中はずっと「もしかしてこの映画は、軍人会系右派閥が従北系左派閥を牽制するためのカウンターアタック作戦だったのではないか?」などと考えていたのである。
なぜなら、ここ最近の韓国映画は軍事政権を槍玉に上げて批判し、悪へと祀り上げる「社会派」ネタが定番になっているからだ。
そう考えると、これまで韓国映画では叩かれっ放しだった韓国内右派系の人々(=お金持ち)の中から、『인간중독』のような作品に出資を行い、やり返そうという動きが出たとしても、なんら不自然ではない。
だが、仮にそうであったとしても、それは映画を観に行かない裕福な高齢者層の発想かもしれず、映画をよく観る世代の支持を得ることは当然ながら難しい。
実際、『인간중독』の韓国における興行収益は累計約144万人程度(※1)なので、「ああ、やっぱりね」的な数字だ。
作品を支持している人たちもWEB上の統計によれば40代の女性が中心(※2)で、「右派」とか「左派」といったことにあまり影響されない人々だろうと思われる。
(※1)毎度おなじみKOFICの統計では1,442,014人(総スクリーン数1,635)
(※2)NAVER영화の統計に依る
韓国の若者が軍事政権を否定し嫌うことが流行りの現在、累計動員数約144万人という韓国内での数字は意外と健闘した方かもしれないが、一味違った人間ドラマで高く評価されているヒットメーカー・김대우監督&脚本の最新作としては、かなりショボイ結果と言われても仕方ないだろう。
そして、政治に関心が薄い人から言わせれば、「軍事政権下を舞台に主人公は陸軍エリート将校、それを송승헌が演じるんじゃ、そりゃ、みんな行かないわ」だったのでは?
日本では同年11月22日に、こっそりと地味に公開された。
原題はまるでゾンビが闊歩するホラー映画のようだが、おそらく韓国内WEBマーケティング対策として妙なタイトルを付けたのではないだろうか。
内容的には日本語タイトルの方が近いが、これだと凡庸過ぎて、今の韓国では埋もれてしまいそうだ。
個人的には興味の無い作品、主演が송승헌なのも観に行くことを躊躇させたが、
1.知人の俳優氏が송승헌の演技を褒めていた
2.1960-1970年にかけての韓国陸軍上層部を描いている
3.映画の日が空いていた
主にこれらの理由で観ることにした。
김대우監督の新作としては残念ながら「下」の出来栄えで、김진평演じた송승헌はともかく、相手役종가흔演じた임지연の演技があまりにもひどいので呆れてしまった。
いくら新人とはいえ、これでは本来なら「完全OUT!」だろう。
彼女は後に、悪評高い韓国内某映画賞で新人女優賞をもらったが、今も「忠武路事情」(※)は相変わらずのようだ。
(※)ここ十年は江南・狎鴎亭・新沙洞事情と言った方が正確かも?
しかし、最大の驚きだったのはそんなことよりも、この作品が軍事政権時代の陸軍将校を主人公にして、その暮らしぶりや主張を表立って描いていたことだろう。
なぜこれが「驚き」なのかと言えば、この階層に属していた人々は今の若い人たちから【自分たちを苦しめている諸悪の根源】として、政治的な吊し上げの対象になっているからだ。
それは言わば、「ポスト日帝時代批判」のようなものであり、「反日」の別バージョンかもしれず、下手を打てば『青燕(청연)』だとか『マイ・ウェイ(마이웨이)』の二の舞いになりかねない因子を抱えたお話なのである。
もちろん、過去における幾つかのヒット作のように朴正煕元大統領を決して英雄として扱わず(かといって悪としても扱わず)、全斗煥元大統領だけをこき下ろすか、暗黙で軍事政権を批判しているように見せかければ、それほど問題にはならないのだけど、この『인간중독』にはそういう偽装が感じられず、真面目に積極的に正直に、昔のコアな軍人たちを悩み多き不完全な「人間」として公平に描こうとしている。
その姿勢は映画の出来とは全く別に高く評価したいのだが、同時に「こりゃあ、最近の韓国ではマーケティング的にヤバイだろう」な映画だったのである。
そして、さらにびっくりしたのは主人公김진평がベトナムに派遣された「猛虎部隊」の幹部という設定であり、劇中「韓国兵が残虐行為をしたのはベトコンがそれを先にやったからだ」といった主旨のセリフを吐いたことだ。
これを今風に言い換えると彼は「軍事政権下で利権を貪った階層」に属する憎むべき人間であり、「朴正煕元大統領&全斗煥元大統領、直接の手下」という悪者であり、「ベトナムで虐殺を行った」恥ずべき当事者、ということでもあって、自称・他称の左派系愛国者が嬉々として罵詈雑言を浴びせそうな「韓国黒歴史」の象徴みたいなキャラなのだ。
だから、この映画を観ている最中はずっと「もしかしてこの映画は、軍人会系右派閥が従北系左派閥を牽制するためのカウンターアタック作戦だったのではないか?」などと考えていたのである。
なぜなら、ここ最近の韓国映画は軍事政権を槍玉に上げて批判し、悪へと祀り上げる「社会派」ネタが定番になっているからだ。
そう考えると、これまで韓国映画では叩かれっ放しだった韓国内右派系の人々(=お金持ち)の中から、『인간중독』のような作品に出資を行い、やり返そうという動きが出たとしても、なんら不自然ではない。
だが、仮にそうであったとしても、それは映画を観に行かない裕福な高齢者層の発想かもしれず、映画をよく観る世代の支持を得ることは当然ながら難しい。
実際、『인간중독』の韓国における興行収益は累計約144万人程度(※1)なので、「ああ、やっぱりね」的な数字だ。
作品を支持している人たちもWEB上の統計によれば40代の女性が中心(※2)で、「右派」とか「左派」といったことにあまり影響されない人々だろうと思われる。
(※1)毎度おなじみKOFICの統計では1,442,014人(総スクリーン数1,635)
(※2)NAVER영화の統計に依る
韓国の若者が軍事政権を否定し嫌うことが流行りの現在、累計動員数約144万人という韓国内での数字は意外と健闘した方かもしれないが、一味違った人間ドラマで高く評価されているヒットメーカー・김대우監督&脚本の最新作としては、かなりショボイ結果と言われても仕方ないだろう。
そして、政治に関心が薄い人から言わせれば、「軍事政権下を舞台に主人公は陸軍エリート将校、それを송승헌が演じるんじゃ、そりゃ、みんな行かないわ」だったのでは?
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