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Vol.459 祟礼門再生 [韓国カルチャー]

 それは2008年のこと。
 社会へ不満を持つ一高年齢者の手によって放火された南大門こと祟礼門が焼け落ちたことは、今だに記憶に新しい。
 ソウルに残る数少ない、それなりに古い建築物の一つだったので、個人的な思い入れは全くないものの、ちょっと残念ではあった。

 古式建築に必要な材料や技術が韓国内で失われて久しいこともあり、再建までに相当の年月がかかる、という説も囁かれた。
 しかーし。
 いくつか韓式黄金パターンのトラブルはあったものの、2013年にはあっけなく復元が完了してしまった。
 なんやかんやいってもゼネコンの盛んなお国柄である。
 火災前にちゃっかり精密測定は済んでおり、再建は巷で大騒ぎするほどの事でもなかったようだ。
 韓国ではここ何年か、富裕層向け住宅では木造の伝統建築が見直され、流行っていたりもしたので(『建築学概論』もそれ系のネタだと思う)、それなりに建築業界の方でもノウハウの蓄積があり、潜在的に準備が出来ていたのだろう。
 完成後も、黄金パターンに彩られたスキャンダルで揉めてはいるが、まあ想定内、とりあえず再生できたことの方を評価したいと思う。

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 そんな訳で、近くに来たついでに久々に祟礼門まで足を運んで見ることにする。
 日本でも超々有名な観光スポットだが、昔から個人的には全く用事がない場所なので、本当に久しぶりだ。
 朝日が眩しい午前中だったこともあってか、昔の記憶と比較すると、祟礼門よりも傍にあるYTNや新韓銀行の方が目立っていたりする。

 今回の復元に際して、どうやら敷地面積が増えているようだ。
 新しい石畳が眩しく輝き、野球やサッカーが出来そうなくらい広い。
 門の内部、天井には龍の絵が再現されているが、こういうものは古来から続く希少性が第一なので、ギンギラギンに顔料が輝く様子に魅力はない。
 絵がちょっと下手すぎないか??と思ったのだが、実際は焼け落ちる前の方が再現度がいい加減で、現在の方が分かる限りではオリジナルに近いらしい。

 城壁部分は、焼け残った部品を活かしつつ、組み直した構造になっているので、つぎはぎが目立つが、これは仕方ない。
 だが、テクスチャがここまで違うと、何年経っても違和感は変わらない気がする。
 新しい石垣には切り出した時につけられたとおぼしき大きな傷痕がそのまま残っているが、オリジナルもこういう感じだったのだろうか?(記憶がない)

 祟礼門は目立つ場所にあるので、光化門や市庁前からすぐに見えるが、意外と距離があり、敷地に行き着くまで妙に遠回りなのでイライラさせられた。
 ちゃんと直通の横断歩道を設けて欲しいところだが、地元の人は足を向けない名所だろうから、観光客は商店街兼地下道を使え!ってことなんだろう。

 ここ十年あまり、ソウルではゼネコン優先の市政が続いたためか、江北でおなじみの光景が激変した。
 妙なガラス張りの建築が増殖し、市庁は恥ずかしい形に改悪され、世宗通りはみっともないお祭り公園と化し、東大門スタジアム跡地には不気味な巨大施設が作られた。
 高速道路を取り壊し、清渓川の蓋を開けたまでは、それなりに新しい街作りとしての意義があったと思うのだが、その後の展開が怪しい。

 それに比べれば祟礼門の復元は、賛否両論あっても相当まともな方であり、いいことだったとは思うけど、高層ビル群に埋もれて生彩に欠けたその姿を見ていると、とうの昔にソウルの中核部は別の場所に移ったんだろうな、と改めて痛感させられるのであった。

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Vol.447 大スターになる予定かも? 『투모로우 모닝』 [韓国カルチャー]

 地下鉄二号線「三成駅」から歩いて数分のところにある「KT&G상상아트홀」で2013年6月1日から9月1日まで上演された『투모로우 모닝』はアメリカのミュージカル『Tomorrow Monning』の韓国版だ。
 戯曲自体は日本でも『トゥモローモーニング』として時折上演されている。

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 内容は至って小粒で地味だが都会的なお話なので、キャストや演出がハマれば、なかなか小粋な舞台、映画ならばニューヨーク派が好みそうな物語である。

 結婚式を控え、不安と希望におののく初婚のカップルと、離婚する中年カップルの心模様を一つの舞台でほぼ同時に描いてゆく。
 ポイントは登場人物たちがきちんとした職業人かつ、それほど若くない、ということであり、結婚や恋愛を妙に理想化したファンタジーで描いていないことである。

 「KT&G」といえば大田市に本拠地にする韓国のタバコメーカー、タバコ業界世界ランクでも上位に入る韓国の有力企業だが、ちょっと前から文化事業に力を注ぐようになって来ていて、ここ7~8年くらい、色々なところで名前を目にするようになった。
 関連施設では弘益大前にある「상상마당」が有名で、ここはインディーズ系映画の製作や配給、ポストプロダクション事業も行っている。

 「KT&G상상아트홀」もまた、そういった文化事業施設の一つだが、ここで上演される演目は興味深いものが多く、最近人気を集めていた演目では、안내상主演、三谷幸喜・作の『너와 함께라면』がある。
 劇場内部は適度な広さで非常に見やすく、チケットもそれほど高くない。
 一部の有名な大劇場よりボッタクリ感は少なく、スターの仕事ぶりを目の前で観ることが出来る。

 主演の一人잭役のダブルキャストとして박상면が起用されており、これはこれで非常に観たかったのだが、今回の目的は若手女優김슬기にあった。
 彼女は1991年生まれ、まだ大学を卒業したばかりだが、在学中の舞台で注目を浴び、장진にスカウトされたことから一躍名を知られるようになった。
 映画はあまり出ておらずメジャー作品としては『무서운 이야기 2』の1エピソードくらい、世間一般の認知度は低いものの、映画業界ではチェックされているようである。

 今回の『투모로우 모닝』は小粒なミュージカルとして熟れており観やすく、歌曲も非常にいい。
 巷では聞かない歌ばかりだが、分かりやすい音律で構成されていて、CDがあったら買ってもいいかな?という感じだ。

 美術もコンパクトで適切であり、地味だがいい仕事をしている。
 黒板を模した壁一面に描かれたチョーク絵が印象的、妙に凝るよりも想像力を促してくれる。
 以前、梨大の삼성홀で観た『뮤지컬 벽을 뚫는 남자』より、総じて親しみやすいミュージカルだった。

 出演する四人も的確な仕事ぶりを見せる。
 歌が上手いのは当たり前、年齢相応の落ち着きがあって戯曲にマッチしたキャスティングだ。
 존演じる이창용がなかなかイイ男だが、演じた役柄が下品な軽いキャラだったので、ちょっと違和感があった。

 肝心の김슬기は존と結婚する캣役として登場するが、その第一印象は「とにかく、歌が上手い!」ということ。
 ややフラットだが高音の伸びが非常にいい上、全然息切れしない。
 パワーで押しまくるような歌い方ではないので、物足りない向きもあるかもしれないが、今回の戯曲にはよく似合うキャラであり歌声だ。
 
 特に美人でもなく背も高くなくで、「普通」のルックスだが、逆にそれが武器になりそうな気がする。
 「韓流女優」という阿呆な特別扱いをしなければ、日本でもいい仕事ができそうな素質を感じた。

 今後、彼女は장진演出の舞台や映画へ出演することになるのだろうけど、機会があれば장진演出ではない作品で是非観たいと思う。

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Vol.444 思い出はcolaの泡のごとく 『콜라소녀』 [韓国カルチャー]

 2013年7月9日から9月8日まで、恵化洞にある아트원씨어터で上演された『콜라소녀』は、「2012年度ソウル演劇祭」で観客から高い支持を受けた舞台である(とサイトには書いてある)。

 私は知人の俳優氏から推薦を受けたので観に行ったのだけど、아트원씨어터の演目は基本「アタリ」という印象があるので、それもまた理由の一つであった。
 観覧した席は最前列の座椅子、正直これはしくじった感があったものの、俳優たちの微妙な表情を観ることができた(でも次はもっと後ろで観よう…)。

 『콜라소녀』という不可思議な題名だが、戯曲はオーソドックスな内容である。
 演出も地味で、奇をてらってはいない。
 家族関係や郷愁を描きつつ、ファンタジックな仕掛けが行われているところなどは、「韓国式スタンダード」な舞台だったと思う。
 でも、せっかく韓国で観るわけだから、外国の戯曲を翻案した大掛かりで派手な舞台より、価値があるような気もする。
 観客層は意外と若く、子供連れも何組か来ていた。
(STORY)
韓国の田舎にある古ぼけた一軒家。
独りの老女(=김용선)が、軒先で청국장を干していた。
そこに古ぼけた衣装に身を包んだ少女(=박시영)がやって来る。
二人はとても親しい関係らしいが、どこか不自然で奇妙だ。
そこにおみやげを抱えた孫娘(=정세라)と恋人らしき男(=김승환)がやって来る。
そう、今日は久しぶりに老女の家族が、長男(=장용철)の還暦祝いのために、伴侶を引き連れて都会から戻ってくる日なのである。
やがて次々と訪れる面々。
彼らは庭で전を焼き、酒をたしなみながら、それぞれ男女のグループに別れて他愛のない話に明け暮れる。
だが、それぞれのエゴや思惑が明らかになるにつれて、その家族関係は決して楽しいものではないことが明らかになってゆく…

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 舞台は、庭先と山の原っぱだけで話が進んでゆくシンプルな構成だが、最初に家族が再会する成り行きは見事である。
 老女と少女のなごやかなふれあいから始まって、徐々に家族が集まり、料理を作りながら会話に興じる。
 文字で描くとそれだけなのだけど、映画における見事な長廻しワンカットを連想させ、とにかく俳優たちの動きがスムーズであり無駄がなく、実に見事であった。
 ここのシーンでは本当の食材を実際に料理し、各人が食べながら会話劇を繰り広げてゆくのだが、川の流れのように自然で違和感が全くない。

 キャストの平均年令は高めだが、総じてスキルが高く、演技も安定している。
 老女演じた김용선は、ちょこちょこと映画に出演している人だが、全体的に演劇を観ている人以外には、あまり馴染みがない俳優陣かもしれない。
 個人的に最も印象に残ったのが、表題の『콜라소녀』演じた박시영だ。
 「オバQ」似のファニーな可愛らしさを湛えた人で、今回はキーキャラの一人であり、もっとも象徴的な役柄でもあったわけだが、実にその役が似合っていた。

 この『콜라소녀』はドメステックかつ、地味で小さな舞台だったからこそ、観る価値のある作品だったのかもしれない。

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Vol.440 ユン・ジェムンが街にやって来た! [韓国カルチャー]

 ある日、ふと思いついたので韓国の演劇が日本で公演されないか調べて見た。
 日本と韓国の演劇界は「韓流」というプロパガンダが喧伝される前から地味ながらも真面目で確かな交流があった分野だ。
 それまでも定期的な日韓公演イベントが行われていることは知っていたが、私は日本で演劇を観ないし、マスコミはこうした情報を積極的に取り上げないからなかなか耳に入ってこない。

 ポータルサイト上で調べて見ると「日韓演劇週間」という語句が目に入ったのでそのページを開いて見る。
 「劇団コルモッキル」。
 もしかして「극단 골목길」のことか?
 演し物は『ねずみ(쥐)』、私でも知っている韓国の戯曲である。
 「골목길」、「쥐」…もしかして??
 まさかと思い、さらに読み進めると出演者に「ユン・ジェムン」と書いてある。
 「ユン・ジェムン」、「ユン・ジェムン」…「윤제문」?
 斜めに読んでも、それは私が知っている「윤제문=ユン・ジェムン」以外の何者とは思えない。
 同姓同名でまぎわらしいことは韓国でよくあることだが、「극단 골목길」➜「쥐」からたどれる「윤제문」とは、あの「윤제문=ユン・ジェムン」以外考えつかないので、驚きつつも早速チケットを予約することにした。

 私にとってユン・ジェムンとは、一度舞台を観たいと願っている俳優の一人だが、いつもタイミングが合わず観ることができない。
 すっかりメジャーになった彼だが、最近はどうも舞台へ戻り始めているらしく、彼の公演が行われている告知を韓国のサイトで目にすることが増えたが、どうしても観ることが叶わない。
 だから、日本で公演をやるなんて脳内蚊帳の外、晴天以上の霹靂だ。

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 公演期間は2013年9月11日~16日までの一週間、チケットは一ヶ月以上前から販売されていたので、「こりゃもう無理だろう」と思ったが、予約サイトでは「余裕があります」で拍子抜け。
 もっとも、「劇団コルモッキル」や「ユン・ジェムン」は作為的な「韓流」と関係ないから、人気がないのは自然なことかもしれない。

 公演が行われた「上野ストアハウス」は裏路地(まさに골목길)の地下にある小さなスタジオで、地図がないと駅から到達不可能な感すらあったが、中は適度に狭くて舞台との距離感もちょうど良く、恵化洞や新村辺りに散らばる小劇場群とよく似た雰囲気だ。

 全席自由だが、当日どのくらい人が来るのか全く読めないので、やや早めに出向いたものの、開場するまで誰も来ず、拍子抜け。
 ロビーでは公演関係者同士で韓国語についてやけに盛り上がり、なんだか嫌な雰囲気なので遠慮して、しばし廊下で待つことにする。

 開場すると人がどんどん増えて行き、最終的には大体9割くらいの入りだろうか。
 韓流ファンぽい女性が約二名いたが、他は普通の演劇好きの集まりといった趣だ。
 上演まで大分時間があったので、座席で寝て待っていたら、唐突に舞台が始まった。
(STORY)
不詳の時代
どうやら戦争と大規模な災害の後らしく、街は洪水に侵食され、増殖したネズミが跋扈し、人々は苦しい生活を送っていた。

舞台となる家の中には靴や道具がところ狭しと立て掛けられ、隅にはラジオ放送の設備が置いてある。
どことなくソウル・オリンピック前の韓国を連想させる雰囲気だ。
そこに一家の長兄(=キム・ジュホン)が部屋に入ってくるとレコードをかけながら放送を始める。

やがて老母(=チョン・ヒジョン)と妊娠している末っ子(=チョン・セラ)が入ってくる。
彼らにとって新しい子供が誕生することは、父親が誰だか分からなくても大きな喜びだ。
長兄は戦後に経験した、父の想い出を語り始める。

しばらくして、もう一人の妹(=コ・スヒ)と弟(=ユン・ジェムン)が外から戻って来ると、大騒ぎが始まる。
だが、彼らが外で一人の少年(=パク・ジェチョル)を捕まえて戻ってきた時から一家の恐ろしい正体が明らかになってゆく。

やがて、少年の母親(=キム・ナムジン)が息子探しの依頼にやって来るが…

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 物語の時代背景はてっきりソウル・オリンピック前の時代かと思ったが、どうやら引っ掛けだったようだ。
 映画『悪魔のいけにえ(The Texas Chain Saw Massacre)』か『ザ・ロード(The Road)』のようであり、ちょっと世紀末SFの香りが漂う。
 世界観をビジュアル的に突き詰めて、アクションやグロテスクを幾分散りばめれば、映画にしても面白そうな話である。

 物語の中心は長兄と母親、末娘といったところで肝心のユン・ジェムンはなかなか姿を現さない。
 が、突如凶暴な道化として登場し、舞台の上で暴れ始めると、物語はどんどんグロテスクな世界観をあらわにしてゆく。
 だが、軸になる部分は韓国の定番ともいえる「家族」を描いたものなので、それほどキッチュな印象は受けず、むしろグロテスクな設定はひねりも何もない韓国らしい内容だ。

 ユン・ジェムンの演技はパワフルだが、劇中では一貫して引き立て役だ。
 でも、彼を特別扱いしない演出には好感が持てる。
 一言、日本語でギャグらしきものを飛ばしたが、全くウケないのはまあ、仕方がない。

 台詞は当然ながら韓国語、舞台中央の壁に日本語字幕が投影されるが、俳優の演技に集中できないので読むのをやめる。
 ここら辺は外国語演劇の難しいところではあるのだけど、映画と同じで、どちらか一方に割り切ってしまった方がいい。

 今回は地元自治体絡みのイベントだったので、「<生きる>ことの考察」をテーマにして日本の「温泉ドラゴン」の『birth』も同時上演されたから、かなりお得な企画ではあった(ただし、パイプ椅子での約四時間は拷問)。

 『ねずみ』がお話こそファンタジーだが、現実的な演出が行われていたことに比べ、『birth』の方は「振り込み詐欺」を扱いつつも、シュールな演出をしているところは、日韓演劇の根っ子にある違いがハッキリ見えて興味深かった。

 この『birth』を韓国版にローカライズして、低予算映画化しても、面白いんじゃないのだろうか?

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Vol.428 そこはカロス・キル(가로수길)らしい [韓国カルチャー]

 ここ数年、なぜか地下鉄三号線新沙駅周辺が一部外国人の間で流行っている。
 どうやら「カロス・キル(가로수길)」と呼ばれる謎の場所が目的らしい。
 実は私がこの『カロス・キル』を知ったのはほんの最近のことである。

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 元々、この新沙駅界隈は半端なエアポケットのような場所だった。
 なにせ「江南なのにホテルが安いよ!」と地元の人から薦められたくらい。
 日本では美容整形院が集まる場所、そして有名なケジャン専門店がある場所として知られてはいたが、基本的に観光客がこぞってやってくる場所ではなかったのである。
 だが、十年くらい前からちょこ、ちょこ、っと日本人が増え始める。

 『カロス・キル』なるものがいつ出現し、流行りだしたのかは知らないが、新沙辺りをよく訪れていた頃、そんな場所は耳にしたことがなかったし、韓国の知人たちから聞いたこともなかった。

 だが、新沙駅周辺をぞろぞろ練り歩く日本女子の隊列を目撃することが多くなり、「みんな、どこに行くんだろう?」と不思議に思っていたのである。
 なにせ、平均年齢が江北の日本人女性よりもかなり若い。
 だが、ひょんなことから、この謎の『カロス・キル』がどこなのかを知る…

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 なんてことはない、いつも知人と待ち合わせてお昼を食べに行く場所が『カロス・キル』だったのである。
 「なーんだ、ここ?」
 拍子抜け…

 大手デベロッパーが開発を進め、行政と組んで宣伝をやっているのか、絵に描いたような「分かりやすいオシャレな店」が並んでいる。
 裏の「あびこカレー」には芸能人がマセラッティで乗りつけて飯を食っているぞ!
 …とまあ、そんな感じではあったんだけど、やっぱり伝統が浅いスカスカ感と苦しさが漂っていて、わざわざ来るような場所に思えないのだった。

 こんなところへ地下鉄に乗って来るのならば、狎鴎亭洞の俗にいう「新沙」と呼ばれている辺り(→ややこしい!)の方がはるかに面白いし、腐っても弘益大辺りに行った方がソウルのプログレッシブな面がまだ見えると思う。

 『カロス・キル』に立ち並ぶ店舗は外資系大手も目立つ。
 おそらく韓国財閥系直下にある商業街なんじゃないだろうか。
 最近のソウルは古い区画を「ごそっ」と大手デベロッパーが買い取って、自前で再開発を行い、出来た建物に関連子会社店舗を入れる、ということが流行っているらしいが、この『カロス・キル』もそんな場所に見える。
 そういえば、この間入った飲食店専門のビルはCJ直営だったし…

 もっともそういう事情は東京もあまり変わらないかもしれない。
 だが、ソウルよりマシなのは、個人のお店がまだまだ沢山あって、多くの人がそれを支持してくれることだろう。

 ソウルでお店が綺麗になることは結構だし(特にトイレまわり)、マスコミの宣伝に惹かれて外国人観光客がぞろぞろやって来ることも韓国経済にとって「カモネギ」的に良いことだろう(日本人としてはムカつくが)。

 そのことを否定する気はないけれど、ただでさえ江南周辺は歴史が浅い「無理に背伸びした系おしゃれな街」なのだから、急激な再開発による「強引なオシャレ化」はどうかな?と思うのである。
 なぜなら、そんな場所は飽きられ廃れるのも早いからだ。

 大手が大型商業施設作って一帯を占領してしまう様子は不景気になってからよく見る光景ではあるけれど、個々人の経するお店が凸凹に営める街こそ、韓国が主張する「世界に名だたる先進国」が目指すべき次の形じゃないのだろうか?

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Vol.426 韓国らしいミュージカルだけど…『그날들』 [韓国カルチャー]

 2013年4月4日から6月30日までソウルの大学路ミュージカルセンター大劇場で封切られた『그날들』は、伝説のミュージシャン故김광석の曲をベースに『김종욱 찾기(キム・ジョンオクを探して)』の장유정が書き上げた韓国ならではのオリジナル作品だ。

 出演者はダブルもしくはトリプル、はたまたクアドラプル以上のキャストになっているが、なんといっても話題であり最大の目玉になっているのが、今韓国で最も勢いがある男優の一人、유준상が出演していることだろう。
 日本では홍상수作品の常連として知られているが、韓国では飛ぶ鳥を落とす勢いで人気急上昇中のオールラウンド系の実力派だ。
 유준상の出演は元々回数が少ないこともあってか、公演10日前にも関わらずチケットは売り切れ寸前、なんとか奇跡的にVIP席最後の一枚を入手出来たのは幸運だった。

 ミュージカルセンターはおしゃれで大きく、東崇アートホール隣の隣くらいにある施設だが大学路から隠れているので初めて行く人にはやや分かりづらいかもしれない。
 だが、建物外壁に巨大な看板が掲げてあるから、それほど迷うようなことはない。
 内は意外と狭く構造が入り組んでいて、直感的にどこになにがあるのか把握しにくい韓国らしい設計の建物だ。
 座席は割りと間隔に余裕があり、舞台と距離が近いので後方席であってもミュージカルならそれほど不満はないだろう、といった感じの作りである。

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 『그날들』はそれこそ韓国ならではの物語だろう。
 安重根の伊藤博文暗殺を描いた韓国純正ミュージカル『영웅(英雄)』同様、日本ではミュージカルにしようという発想すら起こりそうにないユニークなネタだが、それがまた、かの国らしいところでもある。
 もっとも、基本は大衆向けエンタテイメントなのでそんなに身構える必要はない。
 『김종욱 찾기』同様、映画化してもいいかもしれない。

 物語は現代から始まる。
 「韓中修交二十周年」を記念した音楽会が開かれ、特殊部隊出身の警備局室長정학(=유준상)はある中国人女性と再会するが、彼女は二十年前に青瓦台で護衛を命じら、ある事件を契機に忽然と姿を消した謎の女人(=김정화)だった。
 やがて舞台はその時代へと遡り、정학とその同僚の무영(=오종혁)、そして女人による大人の三角関係と、大統領家族や職員たちとの交流模様、裏で暗躍する北朝鮮工作員の秘密が描かれて行く。
 最後はうぶな日本人ならドン引きしそうな結末かもしれない。
 だが、深刻なテーマを扱いつつ、あくまでも緩~い腰砕けのコメディだったりするから妙でもある。

 舞台美術は最近流行りのプロジェクターを多用した手法を使っており、雨が降りしきるシーンだけは絶大な効果を上げていたが、全体的に質感がぺらぺらで虚しい。
 楽曲も残念ながらあまり魅力的とは思えなかったが、これは当の韓国人から観ても故김광석の歌に原体験があるかどうかで感動の度合いが全然違うらしいから、仕方ないだろう。
 また、主な登場人物はガチンコな背広姿か軍服が中心なので、舞台いっぱいにいくら歌って踊っても迷彩効果でやたらと視覚的に地味だったりする。

 肝心の유준상は最初、姿を見失うくらい目立たない。
 これは要人警護特有の格好であることが一番の理由だろうけど、元々オーラを常に発しているようなタイプの俳優ではないということかもしれない。
 彼自身、歌を作って歌うことが好きと語っているだけあって歌声は水準以上だが、どうも声の音域があまり広くないらしく、ちょっと余韻に欠ける印象があった。

 良くない意味で目立ったのが、物語のキーを握る謎の女人演じた김정화だろう。
 歌も演技もおぼつかない上、これでいいのか、と思うくらい力がない。
 私が観た時は体の調子が悪かったのだろうか?

 『그날들』は総じて日本人にはピンとこない内容であると共に、国情の違いを超えうる魅力も薄い。
 だから個人的にはあまりおすすめできないのだけど、「韓国らしい」という点では『영웅』と双璧かもしれず、社会学的視点から観るとそれなりに興味深いミュージカルだといえるかもしれない。

(補足)キャストは筆者が観覧時のものです。


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Vol.424「ブルータスよ、おまえもか」は決して悪いことばかりじゃない [韓国カルチャー]

 新沙駅周辺における最後の映画館ともいえるブロードウェイ劇場が、先ごろロッテシネマへと名前を変えた。
 元々設備が古い劇場だったし特に思い入れもないから、別にどうでもいいのだけど、ソウルでは数少なくなった旧態然とした映画館であり、その前を通ることが多かったので、今回装いが変わったことはちょっと寂しい気もする。

 ここ数年、韓国の映画館は一挙に大手チェーン寡占化が進み、実質CGVとCINES、ロッテシネマ三つ巴の戦いと化している。
 だが、かつて主流だった観客搾取丸出しで設備の悪い映画館がどんどん淘汰されているし、各チェーンとも差別化を図るべくそれなりに独自のプログラムを組むようにもなって来ている。
 かつての二番館の機能を、いまは大手チェーンが補填しているような感すらあるのだ。
 「なんでも大手一色」というのは、いささか気持ち悪いが、観客として実はいいこともある。

 旧ブロードウェイ劇場には、INDY Storiesが運営する「inde+(インディ プラス)」が独立した形で併設されているが、ロッテシネマになった後、こっちまで改装されていたことには驚いた(契約が終了した後、ロッテシネマにそのまま戻ることになっているのかな?)。
 シートは特注と思われる居心地の良いものに交換され、一番の欠点であった「前の人の頭がスクリーンに被る」という問題も、座席の配列を互い違いにすることでいくらかましになり、画像や音響も以前よりクリアになったような気がする。
 この「inde+」は場所柄、催しが多く開かれるから、より好ましい上映環境になったといえるだろう。
 窓口も別扱いになっているので、時間帯によってはお昼で人がいないとか、お釣りがなくてあたふたといったギャグのようなことも起こるが、これもインディーズ作品専門館の個性だと思えば許せる範囲。

 肝心のロッテシネマにしても、近所に謎の「カロス・キル」と称する急造の観光名所が控えていることや、外国人向けと思われるホテルが新沙辺りに急増していることから、外国人専用の字幕付き映画興行やそれに準じたプログラムを組む、ということも今後ありうると思う。
 新沙駅に唯一生き残った映画館という意味では、とりあえず末永く残って欲しい映画館の一つなのだった。

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Vol.422 ある愛の物語 『이야기:사랑』 [韓国カルチャー]

 2013年5月1日から5日、大学路にある타임컴퍼니 스튜디오で新進の演劇集団『꿈의동지』による『이야기:사랑』が上演された。
 劇団の代表であり演出を手がける박지호氏もまた自身が俳優である。

 彼はアンディ・ラウ似のなかなかイイ男で、共通の知人を介して知り合ったのだけど、せっかくの縁だと思い、今回の舞台を観に行って見ることにした。

 成均館大学正門近くにある地下スタジオでの上演ではあったが、こういう機会はあまりないし、商業ベースから離れている分、演じる側の熱意が伝わって来るので高いお金を出して観るメジャーな舞台とは違う発見があったりするから、個人的には興味がある。

 そのスタジオはちょっと分かりにくい場所にあり、メールでかなり的確な指示をもらっていたのだが、最後の二十メートル手前くらいでGIVE UP、迎えに来てもらう。
 施設は地下にあるが、普段は演劇のリハーサルなどに使う場所のようで、一般の劇場とはかなり印象が異なり、舞台の袖で控えている俳優たちもすぐ横にいたりする。

 박지호氏はにこやかで紳士的な印象の人物だが、劇団スタッフに指示を出している時の表情はやっぱり厳しいものがあり、韓国人男性に共通する軍隊的な雰囲気も漂う。

 舞台は中央にパーテーションが置かれているだけで、後は照明とプロジェクターを使っただけの世界観だ。

 物語は3話構成のオムニバス、時代を超えて男女のすれ違いから来る愛の哀しみを描いた物語、上演時間は約60分で実験的要素も強い。

 出演者は全部で8人、まだまだこれからの俳優たちではあるが、基本がちゃんと出来ていて非常に安定していたし、個性的でもある。
 演出や戯曲に忠実というか、目を盗んで自分なりに消化してしまう狡猾さや余裕がまだなく、やや杓子定規な感じはあったが総じて好演だ。

 韓国で演劇を観る場合、スターがぞろぞろ出ている大掛かりな舞台は情報を得やすく、仲介業者を通してチケットを日本から入手することもできるし、あまり外れもないが、小さな舞台は情報が入りにくい上、出来不出来にかなり開きがある(ババ引くと学芸会レベルです)。
 だが、日本で紹介される情報では分からない、優れた俳優たちがまだまだ韓国にいることを発見できる機会でもある。
 大学路からスターになった俳優の何人かは、今でも恵化洞にある馴染みの店によく来ていたりするらしいから、その身近な感覚もまた、韓国で小演劇に接する面白さだと思うのである。

 ちなみに박지호氏とお酒を飲んだ時、冗談で「日本嫌い?」とか「日本人の友だちいる?」と意地悪いことを聞いてみたけど返ってきた答えは「いや、そんなことありません、日本人と知り合う機会がないんですよ」とのこと。

 彼のようなイイ男は、韓国を徘徊している日本人恋活女子からすれば垂涎の的なのではないかと思うのだが、現実はそんなものなんだろうな…などと、演劇とは全く関係なしで実感してしまうのだった。

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Vol.413 오달수演じるキムタクとは? 『키사라기 미키짱』 [韓国カルチャー]

 2012年11月29日から2013年2月24日まで、ソウルの컬처스페이스 엔유でロングラン公演が行われた演劇『키사라기 미키짱』はその題名通り、日本の戯曲『キサラギ』(古沢良太 作)である。

 韓国で日本の戯曲がなにげで人気があることは周知の事実だが、ロングラン公演もよく目にする。
 もっとも、「日本の戯曲だから」というよりも作家や作品に依った人気だと思うので、別にそれ自体は不自然ではない。
 それに人気俳優が出演していたり実力派が揃っていたりと、興行側も力を入れていることが多いようなので、韓国の演劇に興味を持たれた方は一つの目安になるとは思う。

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 엔유劇場は出入り口が狭い上、窓口が駐車場の一角にあるという分かりにくい場所だが、内部は結構広く設備も悪くない。
 個人的に韓国で日本の戯曲を観ることにちょっと抵抗はあるが、今回は오달수が出演していたので行ってみた次第。

 오달수といえば、2000年以降の韓国映画で最も活躍しているスターの一人であり、演劇畑から映画スターになった代表格ともいえる俳優だ。
 世間一般で認知され、脚光を浴びたのはおそらく박찬욱の『올드보이(2003)』からではないだろうか。
 それから約十年間、韓国映画において彼の顔を観ない年はない。
 最近の話題作『도둑들(2012)』では準主役だったし、異色な役としては『괴물(2006)』における「怪物」の声が有名だ。

 오달수は演劇をやめたわけではないが、その舞台を見る機会は意外と少ない。
 映画でもそのパフォーマンスを垣間見ることが出来ないわけではないが、오달수のような個性派はパターンを求められる傾向が著しいので、多彩な面を観ることが難しい、という事情がある。
 その点、演劇は求められるものが異なるので、俳優の力を知るにはいい機会といえるだろう。

 私は『키사라기』のオリジナル版舞台も映画版も観ていないので、韓国版と日本版の差異については何も分からないが、「このネタ、韓国の一般客にわかるのか?」みたいなところもそのままだったから、特に韓国化された気配は感じなかった。

 今回の感想を先に述べると、あまり満足の行くものではない。
 狭い舞台をほとんどワンシーンで五人の俳優がずっと二時間ドタバタやっているだけ、ということもあるが、喜劇としてもミステリーとしても総じて半端な印象。

 前半は五人のおかしなキャラクター紹介に始終している感があり、後半はアイドル「ミキちゃん」死の真相を巡る展開になるが、全体的に平坦でメリハリがない。
 これは戯曲上の狙いから来るものなのか、演出上の計算なのかはわからないけど、観ていて結構シンドい。

 最後は真相が明らかにされ、「ミキちゃん」の持ち歌に合わせた五人の「オタ芸踊り」で締め括られるのだが、これがシツコい!
 韓国の舞台ではこういったシツコいカーテンコールをしばしば目にするのだが、疲れるし観客をダレさせ感動を減少させかねず、もっとアッサリであってもいいのではないか?
 とっとと切り上げる事も必要だと思うのだが…

 肝心の오달수は、役名こそ“키무라 타쿠아”だが、重要でも全く目立たないキャラを演じており、若手のサポートに徹していた感すらあった。
 想像以上に顔が大きく(というか頭がでかい)肩幅が狭く、5頭身くらいのプロポーションは、どちらかと言えば日本人っぽい。

 客席から一番の歓声と拍手を受けていたのはやはり오달수ではあったけど、“야스오 ”演じていた김동현も負けず劣らずの喝采を受けていた。
 彼はTVドラマにもよく出ている人だが、大学路におけるスターの一人だ。

 他の面々はハズレじゃないけど大当たりでもなく、総じて技量の高い人達ばかりであったが「ギラリ」と抜き身の如く光る人もおらずで、ちょっと物足りなかった。

 もっとも、この『키사라기 미키짱』、俳優たちにそういうものを求める舞台でもないと思うので、これはこれで堅実な仕上がりではあったのかもしれない。

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Vol.411 고창석が歌って踊る!『뮤지컬 벽을 뚫는 남자』 [韓国カルチャー]

 韓国の名門女子大、通称「이대(이화여자대학교)」の広大な敷地の中には多目的施設が併設されていることを以前書いたが、ウルトラ警備隊基地のような半地下施設の一角には、映画館やトレーニング・ジムと並んで、それはそれは立派な劇場がある。
 「삼성홀」だ。

 国立劇場や芸術の殿堂に比べれば規模は小さいが、上位クラスの大きさである。

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 2012年11月27日から2013年2月6日まで、この삼성홀において『뮤지컬 벽을 뚫는 남자』の公演が行われた。
 『뮤지컬 벽을 뚫는 남자』はややマイナーだが劇団四季版の舞台をご覧になった方もいると思う。
 いかにもフランス的というか、近代ヨーロッパの小説らしいシュールで奇怪な話である。
 執筆された当時の世相が暗喩として含まれていると思われるがあまり面白いものではなく、原語版を堪能できる人が楽しめる、といった類の物語かもしれない。

 四季版ミュージカルでも決して人気がある演目ではないが、観る目が肥えた人たちにはそれなりの評価を受けているようだが、私は『オペラ座の怪人』だとか『ノートルダム・ド・パリ』だとか、仰々しい方が好きなので、今回は「外したかな」というのが正直なところであった(チケットも高いし…)。

 ではなぜ、このミュージカルを観に行ったかといえば、고창석が出演していたからに他ならない。
 ネットで「最近、演劇やらないのかな~」と調べていたら、引っかかったのが今回の舞台だったという次第。
 ミュージカルはチケット代が高いので出来るだけ避けたいところだが、大学路辺りでは出演していなかったので仕方ない。
 主演が임창정なので観る動機としては逆なんだろうけど、これはこれでラッキーかな?

 メジャーな舞台にふさわしく、主演クラスは皆Wキャストだ。
 私は「임창정+고창석」の組み合わせで観たわけだが、もう一方は「이종혁+임형준」で、これもまた豪華である(日本の「韓流」基準とは関係ありません)。

 さて、肝心の舞台だが、実に、そつなく始まり、そつなく終わる。
 演奏も生だが、こちらもトチること無く、そつなく切り抜けてくれる。
 出演者は全部で12人、皆ハイレベルで歌も踊りも安心して観ていられるが、それはそれは面白くないくらい無難。

 以前国立劇場で観た『ノートルダム・ド・パリ』は俳優たちがみるみる消耗、憔悴してゆくのがハッキリ分かるハラハラドキドキの舞台であったことに比べると、本当に対照的だ。
 
 主演の임창정は子役時代から活躍している現代韓国を代表する大スターの一人であり、映画以外にもコンスタントに大きな舞台に出演し続けている。
 歌手としての評価も高く、何枚もアルバムを出している位なので歌声、演技、表現力ともにいまさら私がとやかくいう余地がない人である。
 キャラとしては生真面目というか、暗い印象ではあるのだが、「普通さ」が持ち味でもあり、今回の『뮤지컬 벽을 뚫는 남자』で演じたデュティユルのような、冴えない公務員の役はピッタリ。

 壁を自在に抜けられる能力に気付いても、それをせこいことにしか利用できず、悪にもなれず、最初から最後まで平凡な男であったデュティユルという役柄は、演じる側としてやりにくいのではないかと思うのだが、임창정はサラリとこなしていた。
 その職人的な上手さは舞台だからこそ一層映えた、といった感じだろうか。

 それでは、고창석はどうであったか?
 正直言うと微妙だった。
 歌も演技もそつなくこなしているのは皆と同じなんだけど、世間一般の人たちが彼に対して持っているイメージに寄りかかったような役ばかりで期待ハズレであった。
 飛び跳ね、踊りまくるようなパフォーマンスも、やっぱり無理だったらしい。
 歌声も息切れ気味だ。

 고창석が韓国映画界で一躍注目され、引っ張りだこになるキッカケになったのは『영화는 영화다(2008)』で演じた映画監督の役だったと思う。
 この映画を観た当時、私は彼のことを全く知らなかったので、本職の映画監督がゲストで演じていたりして…なんて真面目に思ったくらいである(知人の映画監督ですら彼のことを知らなかった)。

 でも、そんな芸達者な彼も、他の舞台出身系バイプレーヤー同様、世間で有名になればなるほど演じる役はパターン化してゆくばかり(最近だと마동석がその轍を踏んでいるのが残念だ)。
 でも、活動スタンスがあくまでも演劇にある俳優にとって映画やTVの仕事は、銭稼ぎの営業みたいな面もあるから、고창석も割りきってやっていると信じたい。

 一方、伏兵だったのが이지송という俳優だ。
 全体の調和を重んじるかのような今回の舞台の中で、ちょっとだけ外れていて、野心も感じさせ、もしかしたらこういうタイプが大ブレイクするのかな?などとちょっと注目してしまったのだった…

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