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Vol.219 『ミッドナイト・ミートトレイン(MIDNIGHT MEAT TRAIN)』屠殺列車は醤油の香り [映画]

 あのクライブ・バーカー(Clive Barker)の小説『ミッドナイト・ミートトレイン』を、日本人の北村龍平が監督して映画にするなんて、この原作が日本で初めて紹介された時には想像もできなかったことだ。

 当初の公開日8月14日からやや遅れて、8月21日から韓国で『ミッドナイト・ミートトレイン』の公開が始まった。
 三成洞にあるMEGA-BOXではだいぶ前からこの映画の大きな宣材が置かれていたから、気になっていた人も多かっただろう(配給はロッテ・エンタティメント)。

 『ライオンズゲート』トップ交代絡みのとばっちりを受けて、一時DVDスルーとまで発表されていたこの『ミッドナイト・ミートトレイン』だが、とりあえず劇場で公開されたことは率直に喜びたいと思う。
 作品の出来、不出来だとか、北村龍平が好き、嫌いに関係なく、この映画の完成と公開はきちんと記憶に留めておくべきだろう。

 この映画の第一印象は「思ったより普通」「やたら地味」ということだった。
 日本人監督だからか、日本ネタも幾つかあって、ちょっとこそばゆかったりする。

 北村監督の映画は、東宝で製作した二本しか観ていないので、なぜ、彼がこんなに高く評価され、話題になるのか、正直よくわからないのだけど、『ミッドナイト・ミートトレイン』を観た限りでは「よくも悪くも破壊者たらんとしている」監督であると共に、「クライアント側の意向を無視しない」監督という印象だった。

 海外の学校を卒業し、仲間たちと自主制作から這い上がって来たそのキャリアは、映画に限らず、日本の映像業界では毛嫌いされるタイプのものだ。
 だから、敵が物凄く多い、という話もよく聞くけど、作品の幾つかを見た限りでは、世間でささやかれているより「常識的」な監督だという気がする。

 この映画も他と同様、原作者のクライブ・バーカーがプロデューサーとして参加し、自分の世界観を破壊されないよう目を光らせていたこともあったのだろうけど、映画は小説のイメージにかなり忠実だ。

 最後に繰り広げられる主人公と肉屋の大バトルだとか、肉屋が獲物に逆襲されやられそうになったりとか、そこら辺のくだりで原作者と対立したんじゃないかと思うのだが、最初から最後までアナーキー度を全く感じさせない、ある意味、拍子抜けするほど「普通の映画」なのであった。

 肝心のスプラッター描写にしても、幾つか惨いシーンは存在するが、目を背けるほどではなく、この映画より残酷描写な作品は、他にいくらでもあるだろう。
 一部マニアご期待の人体損壊描写も、陰湿な執拗さがなく、時には滑稽なほどであって、決して映画の見所、中心ではない。

 だから、巨大肉叩きによる顔面&頭部破壊だとか、犠牲者を解体するシーンだとか、そういったものだけを期待すると結構、肩透かしを喰わされるかもしれないし、その手の描写にこだわるコアな観客には、不評を買いそうだ。

 こけ脅し演出も極力控えていて、ドッキリ、ビックリ、もほとんどなく、ジャンクフード抱えたティーンエイジが大騒ぎをして観る映画というよりも、アート系劇場で大人が静かに観るタイプの作品に近い。

 監督や原作者の意向とは全く別にこの映画で面白いと思ったのは、この映画の根本が都市伝説的である、ということだろう。
 もともと原作がそうなんだから当然なんだけど、都会というものが自律機能を持ち始めて、そこで暮らす人智を超えて動いている、ということを描いた物語だったのかもしれない。
 そこには善も悪もなく、生態系のピラミッドの中で、消費する側、される側の関係を描いただけかもしれないのだ。

 この『ミッドナイト・ミートトレイン』は傑作でも秀作でもないし、『ヘルレイザー』(もちろん第1作目のこと)も全然凌駕出来ていないし、ツッコミどころもたくさんあるだろう。

 だが、そんなことよりも、映画から漂う「静」の感覚は、まぎれもなく日本映画の伝統に通じるものであって、北村龍平もまた、日本人であることを改めて証明していたような気もした作品なのであった。

 血と肉片が飛び散る中、醤油が香る世界。
 特にお薦めはしないけれども、日本でもきちんとした上映を望みたい。

ミート電車.jpg



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