Vol.354 カレーの味 [韓国の食]
地下鉄4号線「弘益大前」駅から歩いて五分ほどのところにある「あびこカレー」をご存じの方は多いと思う。
今では日式食堂街と化したこの一角で、「どんぶりや」と並び、最初に流行った店の一つである。
他にも支店を出し、弘益大前ではもう一軒、より規模の大きな店舗を出したので、以前ほど立ちんぼして待つことはなくなったが、かつては並ばないと食べられない繁盛店だった。
カレーのお店はなにもここが初めてではない。
昔から鐘路や明洞にもあったけど、どこも短命だった。
本格的なインド料理(バングラデッシュ、パキスタンも含む)も同様で、狎鴎亭や新沙洞に出来たり潰れたりしていた。
結局、生き残っていたのは梨泰院辺りの外国人向けの店くらいだったんだけど、最近はやや様子が変わってきていて、「あびこカレー」のように結構流行る所も出てきている。
日式のカレーライス自体は、韓国で昔から割りと普通に食べられていた。
오뚜기の「黄色い糊」カレーは定番だったし、デパートの食材売り場では日本のバーモントカレーが普通に並んでいた。
かつては韓国の軍隊で、よく食べさせられたらしく、それがトラウマになっている奴もいた。
映画好きなら、キム・ギヨンの『下女』でカレーライスを作って食べるシーンがあるのはご存知だろう。
韓国一般のイメージでは、このカレーという料理の属性がどこにあるのかは知らないけれど、それなりにポピュラーな食材ではあったのだ。
ただ、潜在的な人気がある割には、「これ」といった形で根付かない。
そして、日本におけるカレー屋というものが、韓国でいう「粉食屋」に近いのに比べて、韓国のカレー屋は、明らかに高級な料理に位置していた。
そこら辺は食文化の違いではあるのだけど、脂と化学調味料の塊のような日本式のカレーや、保守的な食文化から大きくかけ離れたインド方面の料理は、韓国人の舌に合わなかったのではないだろうか。
そして、韓国式カレー自体が、明らかに不味かった。
澱粉に味を付けて加熱、糊状にして黄色くしただけのような謎の食べ物であって、「好き!」と語る人を見たことがない。
韓国式カレーの特徴は、明らかにキムチ類を混ぜこぜして味を出すレシピになっていたことだろう。
私も下宿で出された時、その不味さに閉口したが、「もしや!」と思い、キムチを混ぜたら、まあ、それなりに食べることが出来た記憶がある。
そういうわけで、韓国において美味しいカレーに遭遇したことは一度としてなかったが、弘益大前に「あびこカレー」が出来てからはちょっと気になっていた。
まず、「あびこ」とはなんぞや?という疑問。
千葉にも「我孫子」という地名はあるが、「あびこカレー」なんて、聞いたこともない。
でも、韓国の「あびこカレー」とはどうやら、大阪にある「我孫子」のことらしい。
第二に、日本人が食べると美味しいのか?という疑問。
流行ってはいたけど、韓国の知人が「高い、不味い、高い、不味い、生卵をどうすればいいか困った、困った」という否定的な話をしきりに連呼する。
だから、遂に入って見ることにした。
同じ弘益大前のお店でも、後から出来た大きな店舗の方である。
その日は、天気が良かったので、外にあるテーブルに座る。
店内は日本語の注意書きが掲げられ、アニメ関係の小物が沢山並ぶ。
よくある「日本文化マニア」層を狙ったような内装だ。
この「あびこカレー」のウリは、脂と化学調味料を使わない、ということにあるらしい。
もっとも、日本式カレーの脂と味の濃さには日頃ウンザリしていたので、このアプローチは結構、正しいのではないかと思った。
だが、油なしでカレーが作れるのか?という疑問もある。
なにせ、元祖とでもいうべき、本式のインドその他のカレー自体、油をかなり使ってコクを出す精進料理のようなレシピになっているからだ。
メニューを観てみると、基本は単純だが、やたらと細かくオプションを選ぶようになっている。
そして、それらを足すと結構なお値段だ。
知人が「高い、高い」と嘆くのがよくわかる。
私はオプションをゴチャゴチャつけるのが嫌いなので、なるべくディフォルト値と思われるものを探す。
「やっぱりポークでしょう」という訳で、ポークカレーを注文。
やがてカクテキ、福神漬けと共に運ばれてきた。
見た目は普通のカレーライスである。
確かに、価格は韓国の物価でいうとやや高めだが、極端に高いわけではないし、量もほどほどだ(ということは韓国的には少ない、ってことかな?)
ただし、玉ねぎが千切りながらかなり大きく食べづらく、肉もバラの薄切りっぽくて、プルコギ定食の悪夢を思い出す。
やっぱりポークカレーはブロック肉を使うべきだと思うし、韓国の豚肉は輸入肉であってもかなり良い肉が安く入手できるので「これはないだろう」などとも考える。
でも、それは好みの問題、薄切り肉は家庭の味っぽくて、これはこれで許容範囲だ。
ルーを口に含んでみると、確かに脂っぽさはないし、アミノ酸系の薬品臭もしない。
スパイスの香りも死んでおらず、凝った作りであることがよくわかる味だ。
でも…美味しくないんだよね、やっぱり。
米の炊き方が良くないことも大きいのだけど、カレーらしさが漂うのは最初の一口だけ、後はモゴモゴとしているだけで味が続かない。
そう、ここのカレーも、よくある韓国式カレーの「肝心な真ん中の部分がスッポリ抜けた」味わい。
たぶん、この「あびこカレー」もキムチその他を混ぜこぜすることで威力を発揮するレシピなのだろう。
空腹だったにも関わらず、三口くらい食べると不味い白米の味が広がるばかりで、食べることがシンドくなってしまった。
カクテキも不味くて、混ぜこぜする気が起こらない味だったこともある。
でも貧乏性なので、全部食べて、ごちそうさま、と店を後にする。
知人が嘆いたことがよく分かる味だった。
味の好みは人それぞれなので、この「あびこカレー」を好む人がいても当然だし、内容は凝っているので、作り手のマインドも決して悪くないと思う。
だが、カレーを食べるなら、日本で食べよう、と改めて後悔させてくれる、ある意味、韓国らしい味だ。
そういうわけで「逆説的必食」メニューなのかも。
今では日式食堂街と化したこの一角で、「どんぶりや」と並び、最初に流行った店の一つである。
他にも支店を出し、弘益大前ではもう一軒、より規模の大きな店舗を出したので、以前ほど立ちんぼして待つことはなくなったが、かつては並ばないと食べられない繁盛店だった。
カレーのお店はなにもここが初めてではない。
昔から鐘路や明洞にもあったけど、どこも短命だった。
本格的なインド料理(バングラデッシュ、パキスタンも含む)も同様で、狎鴎亭や新沙洞に出来たり潰れたりしていた。
結局、生き残っていたのは梨泰院辺りの外国人向けの店くらいだったんだけど、最近はやや様子が変わってきていて、「あびこカレー」のように結構流行る所も出てきている。
日式のカレーライス自体は、韓国で昔から割りと普通に食べられていた。
오뚜기の「黄色い糊」カレーは定番だったし、デパートの食材売り場では日本のバーモントカレーが普通に並んでいた。
かつては韓国の軍隊で、よく食べさせられたらしく、それがトラウマになっている奴もいた。
映画好きなら、キム・ギヨンの『下女』でカレーライスを作って食べるシーンがあるのはご存知だろう。
韓国一般のイメージでは、このカレーという料理の属性がどこにあるのかは知らないけれど、それなりにポピュラーな食材ではあったのだ。
ただ、潜在的な人気がある割には、「これ」といった形で根付かない。
そして、日本におけるカレー屋というものが、韓国でいう「粉食屋」に近いのに比べて、韓国のカレー屋は、明らかに高級な料理に位置していた。
そこら辺は食文化の違いではあるのだけど、脂と化学調味料の塊のような日本式のカレーや、保守的な食文化から大きくかけ離れたインド方面の料理は、韓国人の舌に合わなかったのではないだろうか。
そして、韓国式カレー自体が、明らかに不味かった。
澱粉に味を付けて加熱、糊状にして黄色くしただけのような謎の食べ物であって、「好き!」と語る人を見たことがない。
韓国式カレーの特徴は、明らかにキムチ類を混ぜこぜして味を出すレシピになっていたことだろう。
私も下宿で出された時、その不味さに閉口したが、「もしや!」と思い、キムチを混ぜたら、まあ、それなりに食べることが出来た記憶がある。
そういうわけで、韓国において美味しいカレーに遭遇したことは一度としてなかったが、弘益大前に「あびこカレー」が出来てからはちょっと気になっていた。
まず、「あびこ」とはなんぞや?という疑問。
千葉にも「我孫子」という地名はあるが、「あびこカレー」なんて、聞いたこともない。
でも、韓国の「あびこカレー」とはどうやら、大阪にある「我孫子」のことらしい。
第二に、日本人が食べると美味しいのか?という疑問。
流行ってはいたけど、韓国の知人が「高い、不味い、高い、不味い、生卵をどうすればいいか困った、困った」という否定的な話をしきりに連呼する。
だから、遂に入って見ることにした。
同じ弘益大前のお店でも、後から出来た大きな店舗の方である。
その日は、天気が良かったので、外にあるテーブルに座る。
店内は日本語の注意書きが掲げられ、アニメ関係の小物が沢山並ぶ。
よくある「日本文化マニア」層を狙ったような内装だ。
この「あびこカレー」のウリは、脂と化学調味料を使わない、ということにあるらしい。
もっとも、日本式カレーの脂と味の濃さには日頃ウンザリしていたので、このアプローチは結構、正しいのではないかと思った。
だが、油なしでカレーが作れるのか?という疑問もある。
なにせ、元祖とでもいうべき、本式のインドその他のカレー自体、油をかなり使ってコクを出す精進料理のようなレシピになっているからだ。
メニューを観てみると、基本は単純だが、やたらと細かくオプションを選ぶようになっている。
そして、それらを足すと結構なお値段だ。
知人が「高い、高い」と嘆くのがよくわかる。
私はオプションをゴチャゴチャつけるのが嫌いなので、なるべくディフォルト値と思われるものを探す。
「やっぱりポークでしょう」という訳で、ポークカレーを注文。
やがてカクテキ、福神漬けと共に運ばれてきた。
見た目は普通のカレーライスである。
確かに、価格は韓国の物価でいうとやや高めだが、極端に高いわけではないし、量もほどほどだ(ということは韓国的には少ない、ってことかな?)
ただし、玉ねぎが千切りながらかなり大きく食べづらく、肉もバラの薄切りっぽくて、プルコギ定食の悪夢を思い出す。
やっぱりポークカレーはブロック肉を使うべきだと思うし、韓国の豚肉は輸入肉であってもかなり良い肉が安く入手できるので「これはないだろう」などとも考える。
でも、それは好みの問題、薄切り肉は家庭の味っぽくて、これはこれで許容範囲だ。
ルーを口に含んでみると、確かに脂っぽさはないし、アミノ酸系の薬品臭もしない。
スパイスの香りも死んでおらず、凝った作りであることがよくわかる味だ。
でも…美味しくないんだよね、やっぱり。
米の炊き方が良くないことも大きいのだけど、カレーらしさが漂うのは最初の一口だけ、後はモゴモゴとしているだけで味が続かない。
そう、ここのカレーも、よくある韓国式カレーの「肝心な真ん中の部分がスッポリ抜けた」味わい。
たぶん、この「あびこカレー」もキムチその他を混ぜこぜすることで威力を発揮するレシピなのだろう。
空腹だったにも関わらず、三口くらい食べると不味い白米の味が広がるばかりで、食べることがシンドくなってしまった。
カクテキも不味くて、混ぜこぜする気が起こらない味だったこともある。
でも貧乏性なので、全部食べて、ごちそうさま、と店を後にする。
知人が嘆いたことがよく分かる味だった。
味の好みは人それぞれなので、この「あびこカレー」を好む人がいても当然だし、内容は凝っているので、作り手のマインドも決して悪くないと思う。
だが、カレーを食べるなら、日本で食べよう、と改めて後悔させてくれる、ある意味、韓国らしい味だ。
そういうわけで「逆説的必食」メニューなのかも。
コメント 0