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Vol.412 美味か?珍味か?ゲテモノか?『러시안 소설(The Russian Novel)』(2012) [韓国映画]

 かつて、その「トンデモ」ぶりで観客を驚かせ注目され、国際的な名匠になった映画監督に김기덕がいる。
 なんのコネも持たず、業界底辺からの成り上がった伝説の人ともいえるが、手がけた作品には無類のパワーと比類なき個性がドロンドロンに濃く渦巻いていた。

 それから10年以上経った今、김기덕を標榜したような若手監督の作品が韓国インディーズ系ではゾロゾロ出てくるようになったが、育った時代が豊かになったからなのか、匹敵するような個性がなかなか出てこない。

 しかし、そんな今の世の中だからこそ生まれえたであろう怪作が신연식監督の手がけた『러시안 소설(The Russian Novel)』(2012)だ。

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 김기덕作品が安い定食屋で飯粒を吐き散らかしながら芸術論争をやっているイメージだとすれば、『러시안 소설』の方はマクドナルドでバリューセットをお行儀よく食しながら悪巧みに興じているような感じである。

 この『러시안 소설』がどういう映画なのか、一言で表現するのは難しいと思う。
 小説家を目指す青年の成長を追い損なったような話でもあるし、文学的リズムを映像に変換しようと試みた実験作にもみえるし、へそ曲がり系コメディとも解釈できる複雑な性格の映画だからだ。

 上映時間は140分とやや長尺で、最初の一時間程度は観ていてかなりキツい。
 特に事件が起こるわけでもなく、小説家を目指す性悪青年(=강신효)のダメダメな青春をダラダラと描いているだけで、『러시안 소설』というタイトルの由来もそこら辺にあるらしい。

 うがった視点で観れば、プロのクリエイターを目指す若者たちに対する「おめーら、現実を直視しろよ」的な皮肉にも見えなくないのだが、途中で小悪魔的ヒロインが登場し、物語に関わり始める辺りから映画は急に面白くなり、衝撃的などんでん返しを迎えた後、全く予期しない方向へと進んでゆく。

 『러시안 소설』における一番の面白さは、おそらくこの「トンデモ」な急展開だろう。
 私は呆れて失笑したが、こんな無茶苦茶な変則技は正統派映画青年あがりに考えつかないのではないか。
 物語は「ほのぼのミステリー」と化し、最後は「なんだかいい話だね」で締めくくられてしまう。
 観客としては狐につままれたような展開だが、それが不思議なことに微笑ましかったりするのだ。

 監督の신연식は韓国の記事によると特に専門的な映画教育を受けていないという(劇中、編集者役で出ていたりする)。
 それがどこまで本当なのかは韓国の話なので、いつもの如く分からないけど、김기덕以降へ続く特異な才能になりうるかもしれず、月並みな表現かもしれないが「コリアン・ヌーベルバーグ」とも言うべき動きが、やはり生まれつつある予兆の一つなのかもしれない、などと考えてしまった。

 韓国映画は日本において「韓流」の名で大きな誤解をされたが、それを否定するかのような流れが確実に水面下ではうねり始めているのかもしれず、この『러시안 소설』もまた、『카페 느와르』や『ムサン日記~白い犬』などに続く現代韓国映画のムーブメントを象徴する新鮮さに満ちた作品であったといえるのかもしれない。

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主演강신효は、ちょっと故・松田優作を連想させる面影の持ち主。
劇中ではイヤなヤツを演じていますが、素顔は朗らかな好青年でした。

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