SSブログ

Vol.418 謎の大ヒット?『7번방의 선물(七番房の奇跡)』の奇跡 [韓国映画]

 今年1月27日に公開され1000万人越え(※)の観客動員を記録した『7번방의 선물』は不可解な作品だ。
(※)公式には1278万2920人動員

 何がよく分からないのかといえば、なぜこんなに受けたのか、観ただけではさっぱり分からないからである。
 「警察や司法権力の横暴」を告発したからという一説もあるが、それは「お話を展開させるための設定」であった感の方が強く、そんな小難しいことよりもひたすらベタな感動を目指した結果、「人情とやさしさへの回帰」を啓発したことが、疲れてしまった人たちにウケたんじゃないかという気がする。

 出演者たちは堅実だが定番、地味であり、客が押しかけるような俳優はいない。
 主演の류승룡は演劇から映画界に転身後、個性的な脇役から始まって今では主演級のスターになったが、『7번방의 선물』の役はミスキャストに見えるし、他の面々も、それほど特筆すべき演技はしていない。
 子役の갈소원は飛び抜けていたものの、この映画で彼女のことを初めて知った観客の方が多かったのではないだろうか。

 物語はレトロでドロドロの人情ファンタジーだ。
 刑務所でのシビアな人間関係であるとか、司法の不公平さであるとか、警察のデタラメさとか、第二の人生を用意できるセーフネットの重要性だとか、それなりの社会的なテーマを見出すことはできるが、やっぱりそれも結果論だろう。

 まともな会話が成り立たない知能障害者に娘がいて生活が自立出来ていたり、警察庁トップの幼稚なエゴで有罪が捏造され極刑になる展開や、刑務所職員と受刑者が結託して、死刑囚とその娘を気球を使って脱走させようとするくだりは、寓話性うんぬん以前の問題であり、それこそ「桃太郎」や「浦島太郎」並のお伽話として割り切らないと受け入れることが難しい。

 映画の作りも非常に荒く、まるで二十年前の韓国映画のようだ。
 監督の이환경は韓国映画界叩き上げの中堅、職人的手腕で韓国映画らしい作品を送り出しているが、古臭い。
 老若男女一家揃って楽しむことができる感動の好編ではあるが(個人的には面白かったし)、ヒットしてもせいぜい200万人前後止まり、といった感じの内容なのである。

 結局、外国人の傍観者である筆者にとって、この作品の大ヒットとは、今の韓国が「世界に誇るナントカ、カントカ」を具現化しようとするあまり、多くの人が疲労困憊し、過去への回帰をより強く求めている証のように見えなくもないのである。
 2011年に『써니(サニー 永遠の仲間たち)』の大嵐が吹き荒れたのも、その前兆だったのではないか。

 1999年を大きな境とする韓国映画復興と時をほぼ同じくして、韓国の民主政権はブルドーザーの如く突き進んできた訳だが、韓国映画が洗練されて巧みになればなるほど、いい意味でのプリミティブな面白さを失っていったのと同じように、社会の「豊かさ」と「先進性」を推し進めれば推し進めるほど、なんでもかんでも過激な競争社会と化し、人間関係は希薄になり、そこに経済格差も加わって、老いも若きも大勢の人たちがウンザリしているのではないだろうか。
 新しい政権に対する敵愾心や無関心さはその諦めを象徴しているようにも見える。

 『7번방의 선물』が公開されている間、劇場には年配観客がいつになく目立ったという。
 これもまた、今に至るまでの韓国映画を象徴するかのようだ。

 ここ十年、韓国映画は信じられないほど色々な面で激変したが、ビジネスモデルが固まって行くにつれて、インテリたちが牛耳るマーケティング理論に沿った企画ばかりになり、対象になる観客層は中流以上か小金持ちの若者が中心、一家やお年寄りで率直に楽しめる作品は少なくなって来ているし、若い観客にしてもマスコミが扇動する流行に追従することが条件のようなネタが目立つようになり、やっていることはブロックバスターでも普遍性はどんどん矮小化し続けているようにも思える。

 最近の韓国映画であっても、そのベタさ加減を笑い、おちょくる声が日本にはあるが、筆者から観れば今の韓国映画から、かつてのベタさは失われつつある。
 韓国映画のオシャレ度と産業的インフラが進む一方で、取り残されてしまったのは増え続ける年配の観客層だったのではないのだろうか。

 そこら辺の実際は妄想するしかないけれど、一見しょうもない映画『7번방의 선물』が大ヒットした裏には、数字では推し量れない重合化した事情が潜んでいるのではないかとも考えるのである。

 「懐かしい」「親しみやすい」「大雑把」。
 これらが『7번방의 선물』の大ヒットに繋がった要因だったとすれば、これから数年間、韓国におけるブロックバスター作品に大きな影響を与えそうな気がする。

 ギャラの高さを求める俳優や監督はより「外」へ出てしまい、使い捨てが利く中堅や新人は逆に「内へ内へと」へ潜り込み、インディーズやアート志向のクリエイターはさらに隘路な方向に進むかもしれない。

7gou.jpg

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。