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不運という名の普遍性/映画『컴, 투게더/カム・トゥゲザー』① [韓国映画]

 シン・ドンイル監督約八年ぶりの新作『컴, 투게더/カム・トゥゲザー』(※)が、第12回大阪のアジアン映画祭および第5回Helsinki Cine Aasia映画祭での海外お披露目公開に続き、去る2017年5月11日、本命の韓国で一般公開された。

(※)日本語題名については大阪アジアン映画祭に準じ『カム・トゥゲザー』と表記します。
 
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 しかし、蓋を開けてみれば興行的には惨敗、通常上映は一週間で打ち切りとなり、その後は独立系のアートシアターで単発的に上映されている状況だ(6月現在)。

 だが、これは作品に大きな問題があった、というよりも、この映画に価値を見出す人々が、現在の韓国では「一番映画を見ない層」だった、ということなのではないだろうか?

 なにせ、子供や家族連れがふらりと入り、スマホいじりながら観るような作品ではないからだ。

 そして、『カム・トゥゲザー』のような独立系作品は、そもそも客が来ないというのが通例であって、そのこと自体、決して作品の価値を貶める訳ではない。

 プロデューサーを兼ねたシン・ドンイル監督も、本国での公開前に冗談交じりながら「観客動員一万人超えるのが目標です」と語っていたくらいである。

 実際、『カム・トゥゲザー』の評価は高く、特に主演のポング演じたイム・ヒョングク(『真夏の夜のファンタジー』)とミヨン演じたイ・ヘウン(『冬のソナタ』)の演技は絶賛されている。

 私は「客が入らなかったので、二人と関係が気まずくなっているのでは?」と、監督に意地悪い質問を投げたかけたところ、イム・ヒョングクもイ・ヘウンも、自分たちの演技については非常に満足していて、彼らとの関係は良好、という答えが返ってきた。

 俳優たちの演技に関して言うならば、その好演ぶりは、この二人に留まらない。

 他のキャストも印象深く、深い演技を見せていることが『カム・トゥゲザー』の見所であり、今後、何人かは大手の商業作品に抜擢される可能性があるのではないか、と考えている。
 
 そういった俳優に対する卓見ぶりは、シン・ドンイル監督作品らしい。

 監督のアバターとも言えるキム・ジェロク(『釜山行/新感染 ファイナル・エクスプレス
』)にしても、他の作品では見かけないような、複雑な表情の人物を好演しており、出演時間が短いことがもったいないくらいだ。

 娘役ハンナを演じたチェ・ビンの演技については、個人的には賛否両論といったところで、キャリアの浅さを考慮しても、その拙さぶりは時に、「この子は女優に向かないのでは?」といった印象も抱いてしまうが、泥酔した友達を道路に放り投げて去ってゆくシーンでの変貌ぶりは見事だった。

 ハンナの友人、自由人ユギョン役を演じたハン・ギョンヒョンが、出演した若手女優の中で最も評判になっているとのことだが、私としては、アヨン演じたハン・ソンヨンに大きな可能性を感じた。

 彼女は撮影当時、まだ現役の高校生で、俳優としてのキャリアもほとんどなかったというが、屈託のない明るさとキビキビした挙動、そして時折垣間見せる、リアルで暗い表情が魅力的だ。
 そこに、私は『僕たちはバンドゥビ』で輝いていたペク・チニの姿を重ねてしまう。

 映像は美しく、手がけた撮影チームの仕事ぶりも、出演俳優たちと共に、高く評価すべき点だろう。
 低予算ゆえ、テクニカルな面でやりたくてもできない感が画面から漂い出てはいたものの、晩秋の盆唐(※)を空気感と共にリアルに捉えた映像は一種ドキュメンタリー的でもある。

(※)ソウル南東部にある城南市にある中流以上が集う新興のベッドタウン。『カム・トゥゲザー』の製作に関して幾つかの面で大きな繋がりを持っている。

 興行的に振るわなくても、出演者たちにとっては、大きなキャリアに繋がるであろう足跡を残すことに成功したといっても過言ではない『カム・トゥゲザー』ではあったが、果たして、一連のシン・ドンイル作品として観れば、どうだったのだろうか?

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