Vol.123 「クォン・スンブン女史拉致事件」映画化事件 [韓国映画]
天藤真の代表作「大誘拐」をいまさら読む。
この小説、日本のミステリー、特に誘拐もの分野では古典といってもいいくらい、名高い作品だ。
なんでいまごろ読んだかといえば、今年のチュソクに韓国で封切られた大作「クォン・スンブン女史拉致事件」の原作であり、いま(昔から??)韓国では天藤真の小説が高い評価を受けている、という話を聞いたからである。
「大誘拐」は、日本でも少し前、岡本喜八監督の手で映画化され評判を呼んだ。岡本監督晩年の作品としては最も有名な作品だろう。
さて、小説の感想だが、正直ちっとも面白くなかった。非常によく書けた内容で十分リサーチも行き届き、お話の意外性だとか、独特のユーモア一杯で知的な文章など、さすが戦前のエリート出らしいよく出来た娯楽小説なのだけど、どういう訳か最初から最後までまったくのれず、読んでいるのが苦痛で読み終わるのに一週間近くかかってしまった。
これはおそらく、この小説と筆者の感性が全くそり合わなかったのだと思う。実は小説ばかりではなくて映画版も同じだった。岡本版「大誘拐」は日比谷シャンテで観たのだけど(混んでいた記憶がある)、とにかく長くて退屈で笑えなくて、シンドイ思い出しかない。キム・サンジン版「大誘拐=クォン・スンブン女史拉致事件」は三成MEGA-BOXで観たが、大味すぎて全く笑えず、やはり拷問状態だった(他の客もしらけていた)。
誤解のないよう申し上げると筆者は「大誘拐」を否定しているわけではない。でも、小説にしても映画版にしても、ここまでウマが合わなかった作品は久しぶりだったのである。天藤真の小説は他に読んでいないので、これ以上なんともいえないのだが、韓国で受けている理由って、どこいらにあるのだろうか?
昔から日本の小説は、韓国における翻訳小説の主流であって、1980年代にはミステリーが幾つか映画化されている。村上春樹の「ノルウェーの森」(ミステリーではないが)などは、複数の映画化企画が当時の(この小説が出版された時分の)韓国では存在していたのではないかと思う(原作者はこの小説の映画化を絶対許可しないそうだ)。
韓国的感性と日本的感性がどこまで融合できるか、それは今でも難しい部分の方が大きいと思うのだけど、最近の韓国映画における日本のマンガ&小説映画化の多さを見ていると(そうしたい韓国側の希望も含め)、「これでいいのかい?」と思ってしまう。あまり度がすぎると、いいことばかりではないはずだ。そして、韓国の小説やマンガはつまらん、魅力がないということをアピールしているかのようでもある。
もし、韓国で日本の小説を映画化するのなら、個人的には森博嗣の「S&Mシリーズ」など、韓国映画のスタイルによく似合う内容なので映画化に向いていると思う。チャン・ジンだとか、チョン・ジェウンだとか、ポン・ジュノだとか、森博嗣の世界観と非常に共通するものを感じるのだが、いかがだろうか?もちろん、韓国でも翻訳されていることはいうまでもない。
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