Vol.161 黄金の羅針盤 ライラの冒険 その①原作小説 [小説]
イギリスのフィリップ・プルマンが書いた「ライラの冒険三部作」はべらぼうに面白い小説だ。
一応、児童文学に括られてはいるけれど、子供だけに読ませるなんてもったいない。
硬質でシビアな内容は、ファンタジーの概念を覆す魅力で一杯だ。
かくいう私もファンタジーが好きではないのだが、この三部作は全く別だった。
並行世界を舞台に、「神とは、宗教とは、魂とはなにか」を説き、キリスト教教条主義を痛烈に批判しながらも、量子物理学を匂わせるネタを絡ませ、ファンタジーというよりも、PKDやクレッグ・イーガンのSF小説を連想させる。
教師経験のある原作者が子供に向ける視点も、冷静かつ客観的だ。
主人公ライラは粗暴な、むかつくガキだし、アスリエル卿もコールター夫人も冷酷な鬼畜。
第二部から登場するウィル少年は屈折しきっていて「子供は無垢で純真」と決めつける単細胞な教義主義者をせせ笑うかのようだ。
この小説には天使のような子供とか、無条件で立派な大人といった、エセキャラは一切出てこない。
脇を固めるキャラクターも、ご都合主義のファンタジーとは一線を画す。
もう一人のヒーローである、甲冑熊イオレク・バーニスンはあくまでも猛獣であり、理知的だが凶暴で無慈悲だ。
そこには人間と相容れない絶対的な溝がある。
セラフィナ・ペカーラを代表する北極圏の魔女たちも、男を愛し、子供を生み、そして愛憎に悩み苦しみ続ける人間として描かれていて、さすがオカルト研究の本場ブリテンらしい、とってもリアルな存在だ。
小説「黄金の羅針盤」と、それに続く「神秘の短剣」「琥珀の望遠鏡」は、全編を通して暗く、厳しく、現代的な物語であり、それらが、小説を抜群に面白くしている。
その苦い味わいは、決してハッピーではないけれど、読後、原作者の、人間に対する温かい視点を感じせ、感動的だ。
そして2007年末。
遂に「ライラの冒険第一部 黄金の羅針盤」の映画化作品が公開された…
⇒来年に続く。今年はこれでおしまい!
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