Vol.166 『ミスト(THE MIST)』そのラストに全ての者が言葉を失うだろう [映画]
スティーブン・キングの中篇小説 「THE MIST=霧」を初めて読んだのは、もう26,5年ほど昔のこと。
当時、この小説に対する日本の書評が芳しくなくて、「普通の出来」だとか「キングとしては中の中」といった歯切れの悪いものばかりだった。
今はS・キングの傑作中篇ということになっている…って、一体どういうこっちゃ!
この原作は、私にとって、スティーブン・キングのBEST小説だ。
まるで映画を観ているかのように、ページからは次々と鮮明なイメージが頭に浮かび上がる。
その時から私はこの小説の映画化を熱望していた。
そして数年後、この 「THE MIST=霧」の映画化が決まった、という話が聞こえて来た。
「ヤッター!」
でも、何年待てども製作される気配がない。
トム・ホランドが監督するだとか、TVドラマとして製作されそうだとか、バッタ情報だけがドタンバタンと飛び交う。
やがて長い月日が経った2007年。
いつの間にか、フランク・ダラボンの手によって「THE MIST/ミスト」として映画化され、こそっとアメリカで公開された。
アメリカでは2週間ほど興行BEST10の末尾に顔を出しただけだったが、観た人の間から「凄い」という評判が立ち始める。
そんな訳でいてもたってもいられなくなった私は、さっそく、2008年、SEOULでこの 「THE MIST/ミスト」を観たのだった。
結論として、この 「THE MIST/ミスト」は、S・キング原作の映画化BEST10に入るであろう秀作だ。
映画は最初から最後まで緊迫した空気がピンと張り詰め、息を抜くことが出来ない。
原作小説に出てきた、あれも、これも、最後のデカブツも、みんな出てくる。
特に、このデカブツが登場するシーンは荘厳ですらあって、霧の中に蠢く純粋野生に対して、人がいかに無力であるかを痛感させる、忘れがたい名シーンになっている。
しかし、ラストは映画のオリジナル。
でもこのラストが凄い。
その無慈悲さに私は声を失い、観終わってから愕然としてしまう。
その晩、夢でうなされたくらいだ。
この映画オリジナルの結末に、現在のアメリカが置かれたある状況を重ねることは出来るだろう。
そして、狂信的な原理主義というものが、人が極限状態に置かれた時、どれだけ危険なものになりうるかも描いている。
でも、そんなことより、運命の偶然性というものが、いかに残酷なものであるかを突きつけたところに、一番のテーマがあった思う。
人は絶対的な危機に陥った時、どういう判断をして、どういう行動を取ればいいのか。
本能に任せるべきなのか?冷静であるべきなのか?
でも、その答えを知るのは「神様」だけ。
原作が好きな人のみならず、ヒッチコックの「鳥」が好きな人、ロメロの「DOWN OF THE DEAD」が好きな人にもこたえられない映画、それがこの 「THE MIST/ミスト」なのだ。
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