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Vol.344 端正なまでに不細工な男/ユ・ヘジン(유해진) [韓国俳優]

 見逃していたリュ・スンワンの新作『生き残るための三つの取引/부당거래』を新宿で観る。
 だが、映画の出来栄えとは別に、上映している劇場があまりにもひどいので、お金を騙し取られた気分になった。
 やっぱりシネコンで観ておくべきだったと後悔する。

 内容は一応社会派、それはそれで結構だったのだが、すっかり如才ない映画ビジネスマンと化してしまったリュ・スンワンに、かつての魅力は全く無い。
 成り上がりの出世頭として、ずっと動向を注目していたクリエイターだったけど結局、メジャーデビュー作『血も涙もなく/피도 눈물도 없이』で魅せた眩しさは、これ一発の幻だったのかもしれない。
 がっかり。

 さて、『生き残るための三つの取引』は主演がファン・ジョンミンとリュ・スンボムだが、もうひとり、私の好きな俳優が重要な役で出演している。
 ヤクザの建設会社社長を演じたユ・ヘジンだ。
 その端正なまでに「ヘンな顔立ち」が気になっている人は多いと思う。

 とりあえずデビューは1997年の『블랙잭』(主演チェ・ミンス)ということになっているが、その存在を一気に知らしめ、スターへの足がかりを掴んだきっかけになったのは、なんといっても『アタック・ザ・ガスステーション/주유소 습격사건』(1999年)だろう。

 大きな役ではなかったけれど、彼が演じた金歯の「ペイント」は、この作品で最も観客にインパクトを与えたキャラのひとりだった。
 成り行きで音楽の才能を見出され、人気ミュージシャンになってしまうギャグも笑えたが、そのあまりにも個性的な風貌は、当時の韓国映画では衝撃的ですらあった。

 この作品の後、映画バブルの追い風もあって、次々とユ・ヘジンにはオファーが相次ぎ、2007年の『里長と郡守/이장과 군수』では準主演、2008年のサイコ・サスペンス『トラック/트럭』では遂に主演に登りつめることになる。

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 考えてみると『アタック・ザ・ガスステーション』という作品は、やはり同じく特異な個性派キム・スロが注目されるきっかけになった作品でもあった訳だから、この二人は、同窓生のようなものだ(奇しくも同じ1970年生まれ)。

 韓国芸能界には昔から個性的な俳優たちは大勢いるが、ギャグマンではなく一般の俳優として、ここまでメジャーな存在になった「ヘン顔」スターは、ちょっと他に見当たらないのではないか。

 男も女も、スターは手段を問わず「容姿端麗」でなければいけないという、強迫じみた暗黙の了解がある韓国で、ユ・ヘジンのような個性派が大活躍できるようになったことは、1990年代後半から顕著になってきた「価値観の多様化」の一つでもあり、それに沿った映画や芸能界の変化の顕れのようにも思える。

 そういう点で、今の日本におけるマスコミ主導型の「韓流」が強要するイメージは、先祖返りというか、時代に逆行しているというか、日本社会が後ろ向きに保守的になってゆく予兆のようにも見えるのだった。

 妙な顔立ちばかりが語られがちな俳優ユ・ヘジンだが、実は結構、いろいろ出来る人である。
 ステレオタイプの端役が多いこと、喋り方に癖があることなどから、特定の枠に固定された印象を持たれがちかもしれないが、それなりの役を求めれば、色々と器用にこなせる人でもある。

 B級のショボイ作品ではあったけれども、初主演の『トラック』で演じた貧しい運転手の姿は彼の演技者としての本質を改めてわからせてくれたし、今回の『生き残るための三つの取引』で見せた身分の壁に苦しむ成り上がりヤクザの姿もそうである。

 彼のようなタイプの俳優が日本で注目を浴びたり、評価されたりすることはまずないだろうけど、1990年代後半から沸き起こった韓国映画の波と、今後の流れを考えるとき、スター俳優ユ・ヘジンの存在は、画期的なことだったのかもしれない。

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最新作の一本ですが、出来はイマサン




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