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Vol.352 赤点だけど、その意気込みは100点満点!『7광구/第七鉱区』 [韓国映画]


(あらすじ)
 それほど遠くない未来。
 日本の排他的経済水域にほど近い微妙な場所に、韓国政府肝いりのメタンハイドレート掘削基地「エクプリス」が建設された。
 日本政府は、そのことに対して猛然と抗議するが、長年続く日韓両国の諍いにうんざりした周辺諸国は、沈黙したままだ。
 だが、韓国自力の大計画は遅々として進まない。
 あっという間に飽きっぽい韓国世論の支持を失い、遂に計画凍結が決定されてしまう。
 時を同じくして「エクプリス」では、駐在員が行方不明になる事件が続発する。
 やがて、それは未知の巨大生物の仕業であり、三十年前に日本政府が深海に破棄した生体兵器であることが明らかになる。
 そのことを知った韓国政府は、日本を国際社会で告発すべく、試作パワードスーツ、通称「テコンV」を新鋭軽空母「ノ・ムヒョン」に載せて、海兵隊と共に「エクプリス」救出に向かわせるが…
というのは、真っ赤な嘘だけど、そんなお得意の反日ネタの方が、まだ「韓国映画」として救われたんじゃないの?」と考えてしまったのが、2011年8月4日、韓国で公開された3D&IMAX映画『7광구/第七鉱区』だ。

 この映画は、2011年最大の話題作、といってもいいくらいの一本だったが、公開前からけちょんけちょんにけなされ、公開されれば、さらにボロくそにいわれ、観にいったらIMAX劇場に観客が数人しかいない、という状況。

 大手配給会社得意の強引&無理やり配給大作戦のかいあってか、韓国では200万人以上を動員し、海外でも販売中なので、とりあえず赤字にはならないかもしれない。

 だが、SF関連があらゆる意味でダメな韓国において、出来はトホホでも、こういう作品が出たことを、逆に評価すべき声があってもいいんじゃないだろうか?

 『7광구/第七鉱区』もまた、擬似話題性ばかりが先行し、観客の真の支持が得られない作品であることは否めないが、SFでありモンスターものであるがゆえに、参加したクリエイターたちの意欲が「パチモン」で片付けられてしまうのならば、ちょっと哀しい。

 もともと、韓国は「SF」に対する偏見がひどく、かなり格下に見られているジャンルだ。
 近頃はアニメやハリウッド映画、日本の小説などが普及しているおかげか、潜在的なファンはかなり増えたが、自らの手でオリジナルを作ろうとするクリエイターは、非常に活動しにくい環境にある。

 日本で作品を発表している韓国人漫画家、Boichiこと박무직は、著作が収録されたSF小説短篇集『超弦領域』(東京創元社刊)の中で、韓国における酷いまでの偏見について悲しげに語っているが、これは韓国的SFの状況をリアルに伝えるものだと思う。

 しかし、我が身を振り返ってみれば、ちょうどそれは、40年くらい前の日本に近いかもしれない。
 今でこそ、特撮映画や、ウルトラ・シリーズのハイレベルぶりが喧伝されるようになってはいるが、そんなのがおおっぴらに言われるようになったのは、ここ二十年ばかりのことだし、アニメだって同様である。

 日本SF文學の功労者であり、武闘派でもあった故・福島正実氏は自著『未踏の時代』の中で、文學界における、SFの扱いに対するカンカンガクガクぶりを語っているが、これは今の韓国におけるSFを巡る状況と大きく重なるのではないだろうか。

 「SF映画はお金がかかるから、韓国じゃ無理、市場も狭いし…」といえばそれで終わりなんだけど、「映画がどーたら」という遥か以前に、その根底には「SF」「オカルト」「ファンタジー」といったものに対する偏見と無理解、許容性の無さ、引き出しの少なさ、そして排他性という呪縛が見え隠れするような気もするのだった。

 韓国映画界頂上作戦を目指す、意欲的な若手クリエイターたちが積極的に活動を始めた五、六年くらい前から「SFというジャンルが好きだからやってみよう!」的な動きは、かなり出ているような気もするが、彼らもそれなりに成功して偉くなると「私は日本のSFアニメが大好きなんです」とか「留学時代に、アメリカのSF小説を夢中で読みました」みたいなことは言い難くなる空気はあると思う。
 故に、というわけでもないけど、積極的なムーブメントまでは残念ながら至っていない。

 一時期話題になった『인류멸망보고서(2010?)』も、『테콘V・実写版(2009?)』も、『괴물2(2011?)』も、みんなあやふやだ。
 パク・クァンヒョン監督のスチーム・パンク(という噂)『권법 (2011?)』も、いつ公開されるか、さっぱり分からない。
※(『괴물 2』は、清渓川を舞台にしたリベラルな内容なので、行政の圧力で中止になったという話もあるから、今回のソウル市長辞任劇および、来年の大統領選挙結果次第では、復活するかも?)

 もちろん、韓国の映画業界は日本の常識で測れない不可思議な世界なので、これらの頓挫した企画が突然甦る可能性もないではないが、今はお金の管理がかなりマトモになっていることもあって、国内で支持と理解が得られない企画は、やっぱり難しいかもしれない。
 しかし、これだけ意欲的なSF映画の企画がメジャー枠のリストに載っているのは韓国映画史上、あり得ないくらいスゴイことであり、それが実際全く進まないことは、相当残念でもある。
 最近のインディーズ映画でも、かなりSF的な作品は含まれているのだが、特筆すべき作品は、私が知る範囲では無い。

 そんな中で、『7광구/第七鉱区』は韓国的SF映画の嚆矢になるべきはずだった。
 とてもフラッグ・シップを翻すような出来ではないのは事実だが、それはキム・ジフン監督の前作『화려한 휴가』の出来映えを思えば、容易に想像できたことであって、そのショボさを攻撃して抹殺するよりも、こういう映画を製作したことの方を、もっとポジティブに受け止めるべきなのではないだろうか。

 日本ではSFに対する定義や解釈、受け入れる窓口がかなり広いので、怒涛の『써니』や、アニメーションの労作『소중한 날의 추억』なんかの方が、まさに“Sense of Wonder”に満ちた「SF映画」ということになるのかもしれない。
 だが、韓国では誰もそんなことを言わないし、そんなことを主張しても頭のおかしい「マニア」と決めつけられるだけだろう。

 とりあえず『7광구/第七鉱区』は日本でも公開される予定なので、万が一、どこかの劇場がトチ狂って「IMAX&3D」で公開するようなら、交通費がかさんでも観にゆくことを薦めたい。
 けなすにしても、誉めるにしても、この映画最大の意味は、「SF」であると共に、「IMAX&3D」映画なのだから。

 キム・ジフン監督は既に、次の3D映画、韓国版タワーリング・インフェルノ『타워』の撮影に入っているが、10%位は、その意欲に期待しよう。

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