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Vol.364 冷麺の味 Part2/平壌式冷麺編 [韓国の食]

 「韓国、冬の食事は何がお勧めですか?」と聞かれたら、迷うことなく冷麺と答える。

 -10度を下回る外気から家屋の中に入り、オンドルの上でキンキンに冷えた冷麺を食べる、という行為は昔から「オツなもの」とされてきたが、全くの同感だ。

 「寒い時に寒いものを」「暑い時に暑いものを」という逆説的な飲食方法は、日本でもよく語られることだが、医学的な効能とは別に、「美味しいものはいつ食べても美味しい」ということである。

 だからといって、どこの冷麺でもいいのか?という訳ではなくて、限られた美味しいお店でのお話だ。
 冷麺は元来、北側の食べ物らしく、ソウルというか、昔から韓国で美味しいお店は非常に限られているが、それは今も変わらない。

 ラーメンと同じで、安く上げようとすればいくらでも安く上がるが、美味しいものを提供しようとすると、どんどん高級化してしまうという食べ物であり、巷に転がっている冷麺は前者、私が食べるのは、当然後者であるのだが、どうも年々、冷麺というものは一般の食事から遊離し始めているようで、あまり食べなくなって来ているような気がする。

 一昔前はW4500-から、せいぜいW6000-だったのが、最近はW9000-超えだ。

 これじゃ日本のラーメンと同じような価格だが、高いお店にとって今の韓国では伝統の味を死守することが難しくなってきているということなのかもしれない。

 冷麺は韓国でもひとりでふらりと入って食べることができる数少ない選択肢だし、量も丁度良くと、ワタクシ的にはラーメンや蕎麦みたいなものだが、良いお店は高級化が進んでいて、気軽さが半減しているのは残念である。

 そのお店は清渓川を渡った、乙支路工具街の真ん中にある。
 冷麺好きの間では非常に有名な店で、日本のグルメ本なんかでもお馴染みだが、冷麺屋が比較的集まっているここら辺界隈で異彩を放っている理由は、純然たる「平壌式冷麺」の専門店であるということだろう。

 乙支路界隈は冷麺の名店が集中する場所だが、ほとんどが咸興式だ。
 咸興式が芋中心のコンニャク的食感の麺を使うことに対して、平壌式は蕎麦や小麦粉の比率が高く、九州の棒ラーメンに似た食感であり、水冷麺の場合、とんこつラーメンの「ハリガネ」や「粉落とし」に近い味わいを楽しめる。

 このパリパリして香ばしい味わいこそ、平壌式最大の魅力なのだけど、ソウルではあまり見かけない(もちろん平壌式といっても、冷やし中華みたいな麺を使う店その他、色々ある)。

 お店の雰囲気も非常にいい。
 商店街路地奥に位置し、内装は高度成長期の日本の風景を連想させ、まるでタイムスリップしたようなデジャブに陥るが、あくまでも、質素でシンプルだ。

 定番の有名店であるにも関わらず、全く外国語のメニューがないのも素晴らしい。
 あくまでも、ここの味が好きな人達が集うためのお店なのである。

 場所も地下鉄の出入り口のすぐ前、大きな看板が出ているのでハングルがある程度読める人ならすぐわかるが、あまりに近いので見過ごしてしまうかもしれない。

 メニュー数は少なく、プルコギもあるが、やっぱり定番は水冷麺と豚肉のスユクだろう。
 クッパブと温麺も置いているが、季節によってはなかったりする。
 でも、それらもメニューにあったら、食すことをお勧めしたい。
 特に温麺は日本のラーメンを連想させ、ありそうでない独特の味なので、一回はお勧めしたい。

 残念なことに、この乙支路界隈も再開発の魔の手が伸びつつある。
 国家邁進を標榜すれば、庶民のことなどお構いなし、何事も突然急変する韓国社会のことだから、このお店も、今後大丈夫かどうか分からない。

 移転することで建物が変わり、唯一無二ともいえるステキな雰囲気の店で食べられなくなってしまうとすれば、ソウルはまた一つ、「自慢の食文化」の象徴を失うようなものだ(北の食いもんですが…)。

 韓国式に考えれば、立派で巨大な建物に、ピカピカの豪華な内装、外国人対応の英・日・中語サービスこそ、「一流の証」なのかもしれないが、冷麺のようなシンプルかつ味そのもので勝負する料理こそ、古びてはいても「場」が醸しだす雰囲気が大切であり、良い意味で外国に媚びない民族主義ゴリ押しがあってもいいと思う。
 別に無理して外国語対応なんかにする必要はないのである。

 海外に向けて、日本料理と対比させ、自分たちの優位性を強調しつつ、あまり一般的ではない豪華な高級メニューや、とても普遍性があるとは思えないキムチ類を積極的にアピールするのも韓国らしくて結構なのだが、古い店舗自体を一種の文化財として残す方法も、これからはアリなのではないだろうか?

REMEN2.jpg
プラスチックの注文カードがミソです。

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