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Vol.375 ウソとマコトのせめぎ合い 『カエル少年失踪殺人事件』 [韓国映画]

 映画にしても、TVにしても、実録モノは難しい。
 真実と見せつつも、「虚構は虚構」であるというルールを守らなければならないからだ。

 2012年3月24日、韓国の実録モノ 『아이들... (カエル少年失踪殺人事件)』が日本で公開された。
 韓国での公開は約一年前のことだが、観客動員数が180万人超えになっているので、内容と時期を考えれば、まあまあ、といった感じだろうか。

 私が観た東京の某劇場では「デジタル上映」という表示が出ていたのでイヤな予感がしたが、やっぱりBLUE-RAY上映っぽかった(あくまでも個人の印象です。気になる人は劇場か配給会社にお訊ね下さい)。
 ロードショーと名打った興行でBLUE-RAY上映やっちゃうのは、以前からネットなどでも物議を醸し出しているが、フィルムやDLPにこだわる客からすれば、確かに詐欺みたいなものだ。

 だが、「劇場興行」自体が形骸化している今、『아이들... (カエル少年失踪殺人事件)』のような作品が一応形式だけかもしれないが、日本の劇場で掛かったことは素直に喜ぶべきことかもしれない。

 なにせ、出てくるのは박용우を筆頭に、류승룡、성동일、성지루と絵に描いたようなおっさんたちばかり(シブイともいう)、しかも、ネタは少年が5人も皆殺しにされた未解決事件であり、その背後には韓国現代社会のタブーが見え隠れするという内容だからだ。

 「韓流」というイカれたライン(主流ともいう)から明らかに外れているワケだが、モデルになった事件に関心のある方、韓国の現代史に関心のある方にとっては、なかなか面白い作品だろう。
 特に事件当時、大邱や蔚山辺りには、技術指導やらなんやらで大勢の日本の人たちが滞在していただろうから、この映画を観て感慨深い思いにとらわれた方々もきっといたと思う。

 映画の撮影は最後のクレジットを観た限りでは、全羅道各地、特に全羅北道の全州市を中心に行われたようで、なんかそこら辺も韓国的因縁深さを感じさせたのであった(といいつつも、全州市は映画ロケの定番地だけど)。

 映画の出来もなかなかいい。
 カット数を減らし、トリッキーな移動撮影も極力廃しと、俳優たちの演技をじっくり見せる構成になっており、おそらくだけど、脚本取材の中で得た新たな情報を、公表できる範囲でうまく取り込んでいるので、リアルなところはリアルである。
 特に、子供たちの遺体が発見されて、科学鑑定が行われる一連は、真実味があって一番の見所だろう。

 最後も救いはないが感動的だ。
 劇中、被害者の母親の電話での対応が問題となるのだが、これが非常に冴えた伏線として収斂する。

 ただ、惜しむらくは実録モノとしてのリアリティと、劇映画としてのフィクション性の折り合いがイマイチ、ゆえに事件についても、登場人物についても、彼ら各々のドラマとしても、突っ込みが足りず、中途半端な印象が最後まで否めなかった。
 特に真犯人に迫る部分は、ちょっとやり過ぎというか、作り手側最大の妥協点みたいな部分でもあって、一気に観る側を白けさせる。
 だから、傑作や秀作の領域まで、あと十二、三歩といった感じであった。

 その残念ぶりを思うとき、どうしてもこの映画と比較してしまうのが、ポン・ジュノの『살인의 추억(殺人の追憶)』だ。
 この映画については、色んなところで褒め過ぎたので詳しくは書かないが、虚構と実録の見事な融和、という作劇センスの点でも、やっぱり傑出した映画であることを改めて再認識させられたのであった。

 『殺人の追憶』はかなり強い体制批判、特に国益優先の政府へ対する怒りが含まれた作品だったけど、『カエル少年失踪殺人事件』はそれよりも、他人の悲劇で飯を食うマスコミや行政に関わる人々への批判がかなり込められていたように見受けられる(それもまた遠まわしの体制批判でもあるが…)。

 この映画の製作にあたっては、新たに取材が行われ、それが活かされているという話だが、当然ながら、『殺人の追憶』がそうであったように、この『カエル少年失踪殺人事件』も驚愕の真実が明かされる訳ではない。
 犯人についてはかなり具体的な線が示されるものの、100%信じてしまうことは危険でもある。
 そこら辺も『殺人の追憶』と同じだ。

 だけど、ところどころに、はっきりとは表明できない事実へのメタファーを感じさせる部分もあるので、これから観る人は、そこら辺を読み取ってみると面白いと思う。

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