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Vol.421 これもまた謎の大ヒット? 『私のオオカミ少年(늑대소년)』の奇跡 [韓国映画]

 『私のオオカミ少年(늑대소년)』は2012年10月14日に韓国で公開され、観客動員数701万人を記録、この手の作品としてはけっこう長く上映されていたが、どちらかというと健全な家族向けの作品だ。

 なぜ701万人も入ったかについては、これまたサッパリ分からないが、皆で観ることが出来るような作品が当時、韓国の映画館にあまり掛かっていなかったのかもしれない。
 一部ファンにすれば主演の송중기と박보영の名を上げるだろうけど、それは違うと思う。

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 私は先日、日本で観たのだが、ちょっと特異な印象を受けた。
 ブロックバスターというよりもインディーズぽい。
 物語も世界観もファンシーで、女の子向けの雑貨屋を覗いているような感じだ。
 製作費も抑えた風であり、あまり期待されていない企画だったのではないだろうか。

 映画が始まってからまず思ったのは「監督もしくはシナリオを女性が手がけたのでは?」ということだったのだけど、調べてみると男性である。
 へぇー。
 こういう話を韓国男子が書かないとはいわないが、あまりやりそうにない内容だ。
 そこら辺は『建築学概論(건축학개론)』辺りから始まった新男性路線といえなくもない。

 映画を観終わると「オオカミ少年」自体はさして意味がないように思え、舞台を変えれば「たぬき少年」でも「きつね少年」でも成立しそうなプロットだ。
 そしてあるデジャブに襲われる。
 2013年1月に公開された『7번방의 선물(七番房の贈り物)』に観た後の印象が非常に近いのだ。
 内容は全く異なるけれど、商品コンセプトとしては同じグループにカテゴライズできそうな作品なのである。

 物語は主人公순이が青春のひと時を過ごした江原道での回想として語られる。
 ただし、それが今から47年前というのがちょっと変わっている。
 冒頭が2011年前後と仮定すると、主な舞台となるのは1964年前後、まさに朴正煕政権の真っ只中。
 えっ?どうして。
 同じ軍事政権時代を背景にした『サニー 永遠の仲間たち(써니)』辺りとは意味が大分違うのである。

 監督&脚本の조성희は1979年生まれ、386世代とは違って多感な青春期はすでに民主政権下だ。
 彼がソウル大学に通っていた時期は丁度、金大中政権発足当時に該当し、街では이정현の『바꿔』がガンガン流れていた頃だ。
 だから조성희にとって朴正煕大統領が君臨していた時代とは、畏怖を持って語られた歴史的事実ではなく漠然としたファンタジーであり、「昔はよかった」に気軽に昇華されてしまうくらいリアリティを失っている時代ということなのかもしれない。

 もう一つ印象深かったのは、唯一の悪役지태(=유연석)という金持ちのボンボンに、他の人たちが全く騙されないし丸め込まれないことだろう。
 通常なら、親の権威をカサに着たこのボンボンに皆騙されてオオカミ少年とヒロインが窮地に陥る、という黄金パターンになるはずだが、そういうことは全く起こらない。
 金持ちに弱いはずの警察官は実直に仕事をこなし、地元の人も見識高い人ばかり、誰もボンボンの嘘に耳を傾けない。
 ここら辺には李明博政権時代から吹き荒れ始めた怒れる若者たちの裕福層や司法界への反感が込められていたのだろうか。

 更にうがった見方をすれば、この『私のオオカミ少年』が公開されたのは韓国大統領選挙の年でもある。
 当時、メディアでは【朴正煕=元日本人・高木正雄=親日=けしからん!】という、外国人から見れば「いまさら何を言っているんだ??」的な呆れた批判がタケノコのごとく湧きだしていた時期でもあった。
 『私のオオカミ少年』がそんなところまで見越して企画されたはずはないが、偶然の一致とは恐ろしいものである。

 『7번방의 선물(七番房の贈り物)』との類似性については、次のような点が上げられる。

 ・昔は良かった調の物語
 ・分かりやすい大スターが出ていない
 ・製作費がどうやら抑えられている
 ・登場人物が善人ばかり
 ・「かわいい」映像を目指している

 もしかして、この『私のオオカミ少年』こそ、『7번방의 선물(七番房の贈り物)』謎の大ヒット予兆だったりして、なんて思わず考えてしまうのであった…

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