SSブログ

Vol.429 現代史の闇を描きつつ 『지슬 - 끝나지 않은 세월2』 [韓国映画]

 映画監督として後日評価される人は、大体においてデビュー作で何かしら異様な光を放っている。
 その輝きを保ちながら現役の映画監督でい続けられるか否かは人知を超えた運命の領域かもしれないが、봉준호や김기덕は明らかにそういう「出だしから異様な光」を放つクリエイターだったと思う。

 現在、有能な才能が多数シノギを削る韓国映画界は、あまりに人材が多いためか、逆にこれといった才能を見出すことが難しくなりつつあるが、そこからダークホースとして飛び出た一人が오멸である。

 一般公開された作品は四本のみ(2013年6月現在)、すべてインディーズ枠の低予算作品だが、第二十九回サンダンス映画祭で審査員大賞を受賞した『지슬 - 끝나지 않은 세월2』が韓国でスマッシュヒットしたことから、一躍世間で名前が知られた。

 だが『지슬 - 끝나지 않은 세월2』が持つユニークさとは、一般デビュー作に該当する『뽕똘』の頃からすでにめらめらと立ち昇っていたのである(いや、오멸らしさという点では今のところこの『뽕똘』が最高だ)。

 오멸作品の特徴は徹底して故郷・済州島を舞台に、そこで暮らす普通の人たちと日常の風景を描いていることだ。
 劇中のセリフも、全編済州島言葉に標準韓国語の字幕という凝りようで、基本的はコメディ寄りだが、韓国映画であまり見かけないオフビートな笑いと登場する人間たちを舐め回すように描く点で、筆者にとっては韓国映画というより日本映画を観ているような気持ちになる。

 だが、 『지슬 - 끝나지 않은 세월2』は四・三事件という韓国現代史の暗黒面を正面から扱っていることもあってか、それまでの作品とはかなり趣向が異なっている。
 かなりドメステックなテーマなので、よく外国の映画祭で評価されたな、とも思うのだが、センセーショナルなテーマ性よりも独自の映像言語が高く評価されたのではないだろうか。

 オフビートな笑いと日常風景描写の積み重ね、済州島言葉のセリフという点ではいつもと同じだが、今回は映像表現に力を注いでおり、作為的なモノクロ映像は昔の水木しげる画集を観ているようでもあり、散文的な展開は観る側に奇妙な非現実感をいだかせる。
 そこにはあらすじを語ることを拒絶する意図すら感じた。

 오멸は『지슬 - 끝나지 않은 세월2』の後、メジャー作品を撮る機会を得ると思われるが、それを甘受するか、あくまでも済州島発信のインディーズにこだわり続けるかは分からない。
 だが、오멸が一般マーケット側が求める枠に迎合しつつも、従来のテーマを貫き通し、興行的、作品的に成功を収めることができれば、それは韓国映画にとって新たなエポックになるかもしれない。
 今思えば、봉준호はそれをやってのけた監督であり、김기덕はそれが出来なかった監督だったのではないか。

 ここ十年くらい、韓国では高学歴の若きエリートたちが有名企業ではなく国内の映画産業を目指すようになった。
 だが、高水準の作品でデビュー、そこそこヒットし出来ても映画作家として生き残れるかどうかは難しい。
 日本であればCFやTVの売れっ子ディレクターをやりながら、カリスマ映画監督としての名声を両立させることもできるが、韓国のマーケットにはそんなキャパはないだろうし、故郷を捨てて海外に定着し、映画の仕事を続けることはもっと困難だろう。

 そんな中、『지슬 - 끝나지 않은 세월2』で一躍名前が浸透した오멸が韓国のインディーズであり続け、済州島にこだわり続けることが出来れば、へたにメジャーで打って出るよりも大きな強みになるはずだ。
 日本での評価はまだ先のことになるだろうけど、諸外国の余計な評価に踊らされないで、今のペースとスタイルを維持して欲しい。
 近い将来、彼は名匠になるべき才能の一人だと私は信じている。

jisuru2.jpg

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。