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Vol.439 韓国ホラーの集大成かも 『숨바꼭질(かくれんぼう)』 [韓国映画]

 2000年代初め、当時新人だった안병기(今じゃ大御所プロデューサー)が『가위(友引忌)』や『폰(ボイス)』をヒットさせたことは私にとっては大きな衝撃だった。
 当時、韓国映画界は「イケイケどんどん、とにかくやったれ!」なカオス状態だったので、新人による新手のホラーが出現し大ヒットすること自体は時間の問題だった。
 だが、こんなヒドイ作品がヒットし、まさか日本でも公開されるなんて思いもしなかったのである。

 その後、韓国でホラー映画は定期的に作られていはいるものの、かつての勢いは失われ、今ではマイナーリーグの風が吹いている。
 「新人の腕試し」もしくは「メジャーへの入門編」みたいなポジションに収まってしまった感があるものの、『불신지옥』から『建築学概論(건축학개론)』へ飛躍を遂げた이용주監督のような例も最近あるから、これはこれで意味があるのかもしれない。

 現在、韓国ホラー映画がまともに紹介される機会は日本において残念ながら皆無に等しい。
 「臭いものには蓋をして、香水を振りかけて美しく粉飾して…」という「韓流」が蔓延させた定義せいで、人間や社会の醜い面を露呈させるホラーは邪道なアウトサイダーになってしまっているのかもしれない。
 故にその「リアル」と対峙するには現地まで出向く必要がある訳だが、ニッチな時期にしか上映しないことが多いので、希望通りに観ることが叶わなかったりする。

 そんな中、2013年8月15日という夏休みのど真ん中、全国でブロックバスター公開された『숨바꼭질(かくれんぼう)』は予想を超える好編、ヒット作となった。
(STORY)
喫茶店経営をしている성수(=손현주)は大金持ちではないが妻민지(=전미선)と息子호세(=정준원)、娘평화(=김지영)二人の家庭を持ち、かなり恵まれた暮らしを営んでいた。
そんな彼の元に、長い間音信を絶っていた兄の消息が届く。
郊外にある老朽化した団地で暮らしていたが、突然姿を消したという。
だが、성수にとって子供時代は決して幸福ではなく、特に兄との間に起きたある事件は今も大きなトラウマだった。
墓参りの帰りに、団地を訪れた성수だったが、兄が暮らしていた部屋はどこか様子がおかしい。
男独り暮らしのはずなのに女性が暮らしていた形跡があり、近所の人は兄のことを話したがらない。
そして、各階、各部屋玄関ドアの脇に書かれた謎の記号群。
やがて車の中で성수の戻りを待っていた子供たちが近所に住む精神薄弱の男に襲われるという事件が起きる。
それを救ったのは兄と同じ階に住む주희(=문정희)という娘수아(=김수완)と二人暮らしの中年女性だったが、その出来事は성수一家を襲う不条理な恐怖の始まりに過ぎなかった。

KAKUREN.jpg

 監督の허정は本作が本格デビュー作で、過去には한지승監督の下で助監督をやっていたこともあったらしい。
 夢も希望もない韓国の二十歳を描いた『경복』では俳優として出ていたりもする。

 主演はスターといえばスターだが、地味系の손현주だ。
 ポスターを観れば財津一郎主演か?と思ってしまう。
 『숨바꼭질』という日本語から程遠いタイトルも、映画の内容をさっぱり想像出来なくさせる。
 だが、蓋を開てみれば人間の弱さ、不条理さ、エゴの愚かさを描きつつも、今ではすっかりお馴染みになった韓国格差社会を批判した、なかなか深みのある作品に仕上がっているのだ。
 強引な話題作『설국열차』や、なんだかショボいだけの『더 테러 라이브』より遥かに面白かったくらいである。

 ハリウッドや日本のホラー映画でお馴染みの、死なない殺人鬼や物の怪は一切出てこないが、都会にありがちなご近所の恐怖をサクサクと軽快に、派手なアクションを交えながら描いている。
 重要な舞台となるのが老朽化して低所得層が暮らす団地なのだが、ここにトラウマを抱えた小金持ちの主人公とその家族が取り込まれることから、奇想天外な物語が始まる。
 これもまた、ありそうでなかった展開である。

 ロケーション撮影が優秀で、高い評価を得た이용주の『불신지옥』と似た印象を受けつつも、より明快でありバトル満載なので「団地アクション」としても面白い。
 日本の『クロユリ団地』よりオカルト度は遥かに低いが、映画的面白さでは遥かに『숨바꼭질』の方が上だろう。
 主人公演じた손현주の憮然としたおっさんぶりも味があっていいし、彼が決して絶対的な善人ではないところも物語を深くした。

 話は強引だし突っ込みどころも沢山あるけれど、それは日本も同じようなものだろう。
 日本のホラー映画は「悪と善」「現実と彼岸」にはっきりとした線引きを避けるからこそ独特の不気味さを孕んだともいえるが、韓国のホラー映画はその明解さ故に現実的な気持ち悪さを生み出したともいえる。

 この『숨바꼭질』はホラーというよりもサイコ・サスペンスだが、敵の正体を不条理な存在にしなかったことが、物語に内在する「富める者VS搾取される者」という図式を面白くしている。
 外国人にとっても、その「韓国人自身の戦い」に共感できれば、変則的な社会派ドラマとしても楽しく観ることができる作品なのではないだろうか?

(日本版DVDあらすじ記事について)
 2015年1月9日から某社様より日本で販売されている『かくれんぼ』DVD紹介の「あらすじ」内容が本ブログと一部酷似しているというご指摘がありましたが、筆者は販売や配給、宣材など、同製品には全く関係しておりません。
 しかしながら、日本におけるソフト販売以前から本記事へのアクセス数が例外的に多かったので、「妙だな~」と思っていたことは記しておきます。


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