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Vol.440 ユン・ジェムンが街にやって来た! [韓国カルチャー]

 ある日、ふと思いついたので韓国の演劇が日本で公演されないか調べて見た。
 日本と韓国の演劇界は「韓流」というプロパガンダが喧伝される前から地味ながらも真面目で確かな交流があった分野だ。
 それまでも定期的な日韓公演イベントが行われていることは知っていたが、私は日本で演劇を観ないし、マスコミはこうした情報を積極的に取り上げないからなかなか耳に入ってこない。

 ポータルサイト上で調べて見ると「日韓演劇週間」という語句が目に入ったのでそのページを開いて見る。
 「劇団コルモッキル」。
 もしかして「극단 골목길」のことか?
 演し物は『ねずみ(쥐)』、私でも知っている韓国の戯曲である。
 「골목길」、「쥐」…もしかして??
 まさかと思い、さらに読み進めると出演者に「ユン・ジェムン」と書いてある。
 「ユン・ジェムン」、「ユン・ジェムン」…「윤제문」?
 斜めに読んでも、それは私が知っている「윤제문=ユン・ジェムン」以外の何者とは思えない。
 同姓同名でまぎわらしいことは韓国でよくあることだが、「극단 골목길」➜「쥐」からたどれる「윤제문」とは、あの「윤제문=ユン・ジェムン」以外考えつかないので、驚きつつも早速チケットを予約することにした。

 私にとってユン・ジェムンとは、一度舞台を観たいと願っている俳優の一人だが、いつもタイミングが合わず観ることができない。
 すっかりメジャーになった彼だが、最近はどうも舞台へ戻り始めているらしく、彼の公演が行われている告知を韓国のサイトで目にすることが増えたが、どうしても観ることが叶わない。
 だから、日本で公演をやるなんて脳内蚊帳の外、晴天以上の霹靂だ。

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 公演期間は2013年9月11日~16日までの一週間、チケットは一ヶ月以上前から販売されていたので、「こりゃもう無理だろう」と思ったが、予約サイトでは「余裕があります」で拍子抜け。
 もっとも、「劇団コルモッキル」や「ユン・ジェムン」は作為的な「韓流」と関係ないから、人気がないのは自然なことかもしれない。

 公演が行われた「上野ストアハウス」は裏路地(まさに골목길)の地下にある小さなスタジオで、地図がないと駅から到達不可能な感すらあったが、中は適度に狭くて舞台との距離感もちょうど良く、恵化洞や新村辺りに散らばる小劇場群とよく似た雰囲気だ。

 全席自由だが、当日どのくらい人が来るのか全く読めないので、やや早めに出向いたものの、開場するまで誰も来ず、拍子抜け。
 ロビーでは公演関係者同士で韓国語についてやけに盛り上がり、なんだか嫌な雰囲気なので遠慮して、しばし廊下で待つことにする。

 開場すると人がどんどん増えて行き、最終的には大体9割くらいの入りだろうか。
 韓流ファンぽい女性が約二名いたが、他は普通の演劇好きの集まりといった趣だ。
 上演まで大分時間があったので、座席で寝て待っていたら、唐突に舞台が始まった。
(STORY)
不詳の時代
どうやら戦争と大規模な災害の後らしく、街は洪水に侵食され、増殖したネズミが跋扈し、人々は苦しい生活を送っていた。

舞台となる家の中には靴や道具がところ狭しと立て掛けられ、隅にはラジオ放送の設備が置いてある。
どことなくソウル・オリンピック前の韓国を連想させる雰囲気だ。
そこに一家の長兄(=キム・ジュホン)が部屋に入ってくるとレコードをかけながら放送を始める。

やがて老母(=チョン・ヒジョン)と妊娠している末っ子(=チョン・セラ)が入ってくる。
彼らにとって新しい子供が誕生することは、父親が誰だか分からなくても大きな喜びだ。
長兄は戦後に経験した、父の想い出を語り始める。

しばらくして、もう一人の妹(=コ・スヒ)と弟(=ユン・ジェムン)が外から戻って来ると、大騒ぎが始まる。
だが、彼らが外で一人の少年(=パク・ジェチョル)を捕まえて戻ってきた時から一家の恐ろしい正体が明らかになってゆく。

やがて、少年の母親(=キム・ナムジン)が息子探しの依頼にやって来るが…

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 物語の時代背景はてっきりソウル・オリンピック前の時代かと思ったが、どうやら引っ掛けだったようだ。
 映画『悪魔のいけにえ(The Texas Chain Saw Massacre)』か『ザ・ロード(The Road)』のようであり、ちょっと世紀末SFの香りが漂う。
 世界観をビジュアル的に突き詰めて、アクションやグロテスクを幾分散りばめれば、映画にしても面白そうな話である。

 物語の中心は長兄と母親、末娘といったところで肝心のユン・ジェムンはなかなか姿を現さない。
 が、突如凶暴な道化として登場し、舞台の上で暴れ始めると、物語はどんどんグロテスクな世界観をあらわにしてゆく。
 だが、軸になる部分は韓国の定番ともいえる「家族」を描いたものなので、それほどキッチュな印象は受けず、むしろグロテスクな設定はひねりも何もない韓国らしい内容だ。

 ユン・ジェムンの演技はパワフルだが、劇中では一貫して引き立て役だ。
 でも、彼を特別扱いしない演出には好感が持てる。
 一言、日本語でギャグらしきものを飛ばしたが、全くウケないのはまあ、仕方がない。

 台詞は当然ながら韓国語、舞台中央の壁に日本語字幕が投影されるが、俳優の演技に集中できないので読むのをやめる。
 ここら辺は外国語演劇の難しいところではあるのだけど、映画と同じで、どちらか一方に割り切ってしまった方がいい。

 今回は地元自治体絡みのイベントだったので、「<生きる>ことの考察」をテーマにして日本の「温泉ドラゴン」の『birth』も同時上演されたから、かなりお得な企画ではあった(ただし、パイプ椅子での約四時間は拷問)。

 『ねずみ』がお話こそファンタジーだが、現実的な演出が行われていたことに比べ、『birth』の方は「振り込み詐欺」を扱いつつも、シュールな演出をしているところは、日韓演劇の根っ子にある違いがハッキリ見えて興味深かった。

 この『birth』を韓国版にローカライズして、低予算映画化しても、面白いんじゃないのだろうか?

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