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Vol.457 豚の夢をもう一度? 『사이비』 [韓国映画]

 2013年11月21日に韓国で公開が始まった『사이비』は、前作『豚の王』で注目された、연상호の手によるアニメーション長編だ。
 私的には『豚の王』は実直すぎるというか、ひねりも何もなく、「なんか主張が厨房」という印象が強かったので、あまり評価はしていないが、若い世代の抱えたやり場のない怒りを強烈に吐き出して見せたという点では異色の注目作でもあった。

 今回の『사이비』は打って変わって、もっと大人の領域へと踏み込んだ内容になっていて、「また李明博政権&ゼネコンズへの批判かい」みたいな気配もあるが、韓国で蔓延るキリスト教系カルト教団を中心に描いている。
 だが、蓋を開けると拍子抜けするほど穏やかな作品であり、前作のような停止不能の憤りや怒りは感じられず、テーマに対するアプローチも想定内といったところで、「ちょっと背伸びし過ぎたんじゃないの?」というのがファースト・インプレッションだった。

 製作費は前作の約三倍、作画も遥かにキレイでリアル志向の美術も悪くないが、その分、アニメーションならではの表現性が弱くなっている。
 こういうテーマをアニメーションで描くこと自体は賛成なのだが、『사이비』の場合は、「どこにアニメーションで描く意味があるんだろう」みたいな感じの方が強く、前作の『豚の王』はその作画の汚さが実は作品の力強さと表現性に直結していたことに気が付かされた。

 今回は躍進著しいNEWがバックに付いていることもあってか、製作進行や予算管理の面では前作より、しっかりした体制で作られたのではないかと思うが、そのビジネスライクさが本当なら吐き出したであろう、怒りと毒の混合物を見事なまでに相殺してしまったようにも見えた。

 韓国における地方の再開発問題も取り入れているが、肝心の宗教団体批判はキリスト教が日常に縁のない人間からすると、あたらず触らずといったところである。
 そこら辺を『豚の王』並みにドギツくやらかしていれば、もっと動議を醸しだしたのではないかと思うのだが、大人ブレーキが働いたのかもしれない。

 作品から強引な力は感じられず、「민철はイ・ビョンホンにそっくりだなぁ」とか、「경석の髪型は朴正煕元大統領と同じだなぁ」とか、「実写でやるなら경석はチョン・ジェヨンかなぁ」とか、余計なことばかり考えて観ていた。
 경석の指名手配写真が「詐欺師」として貼られているシーンでは、あまりにまんまなのでギャグかと思って笑ってしまったが、もちろんそうではない。

 『사이비』では철우という粗暴なアウトローが詐欺師に操られた嘘の王国を破壊するという、重要かつ対比的な役割を背負っていたはずなのだが、結局、철우というキャラがチンケなチンピラを超えることが出来ず、その大役を果たせなかった。
 おそらく、연상호監督はあまりにも愚かな철우に無意識下で自身を託せなかったんじゃないのだろうか。
 『豚の王』の子供たちは作り手側の忠実なゴーレムでありえたけど、『사이비』の登場人物たちは、そこら辺が残念ながらうまく機能していない。

 철우が教会を焼き払うシーンや自らが同じ穴のムジナと成り果てる結末は、本当ならもっと鮮烈なイメージになるはずだったんだろうと思う。
 韓国のアニメーション常識に照らし合わせれば、「どぎつい」シーンの連続かもしれないが、バイオレンス描写に鮮烈さはなく、これを観て圧倒される日本人の観客はあまりいないだろう。

 今、韓国のアニメーションが本当に中興期もしくは転換期を迎えているとすれば、とりあえず問題作を送り続ける연상호監督とそのチームには世間の評判など気にしないで我が道を突き進んで欲しいが、どこかの誰かさんたちが「世界に誇るなんたら」だとか、「韓国の宮﨑駿」などと声高に主張して作品が大ヒットした挙句、その個性を失ってしまったら本末転倒だ。
 とりあえず、そうならないことを祈りたい。

似非2.jpg

「第6回日韓次世代映画祭」(3月28日~30日)枠内にて日本初公開。

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