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Vol.462 家までの道のりは大ヒットへの道のりにもちょっと遠かった 『マルティニークからの祈り(집으로 가는 길)』 [韓国映画]

 2013年12月11日、韓国で一斉公開された話題作『マルティニークからの祈り(집으로 가는 길)』は下馬評で大ヒットを囁かれていたらしい。
 だが蓋を開けてみるとそうでもなくて200万人動員に届かず、早々にシネコンでは上映終了が始まった作品だった。
 動員数だけ見れば決してコケた訳ではないのだろうけど、映画の規模を考えるとちょっと寂しい数字である。

 作品自体は秀作といっても差し支えない。
 パン・ウンジン監督の演出は話法が巧みで分かりやすく、冴えて感動的だ。
 メロに溺れずほどよい制御がちゃんと効いており、フランス人キャストをあくまでも第三者として描いているところもいい。
 日本でも普通のシネコンにかけて遜色のない作品だろう(客が来るかどうかは別の話ですが…)。

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2014年8月29日より日本公開

 ではなぜ、それほど「韓国内ではウケなかったのか?」を考えると、まず主演を含む全体のキャストが微妙過ぎたことだったと思う。
 전도연は彼女じゃないと出来ないだろうくらい悲惨なヒロインを好演していたし、夫役の고수はひたすら韓国のおっさんを演じることに徹していてダサ格好いい。
 娘役の강지우は驚異的な子役だし、배성우演じる在仏韓国大使館員の高慢さも強烈だ。
 総じて皆好演なのだが、良くも悪くもマニアック、スターとしての普遍性やカリスマ性といった点で歩が悪かったような気がする。
 主演二人があと十歳くらい若ければもう少し広い層に受けた気もするが、それでは今回の役作りは成立しなかった訳だから痛し痒しである。

 第二に考えられるのが実話路線のやたら暗い物語だったことである。
 しかも舞台はほとんどが海外だ。
 韓国映画には「主な舞台が外国」「外国人が大勢出てくる」「外国語のセリフが多い」とどういう訳か興行がイマイチになるジンクスがあったりするが、『マルティニークからの祈り』の場合これが丸々当てはまる。
 物語については一応ハッピーエンドでそれなりに感動的なまとめ方をしているが、ハッピーさはせいぜい全編の20%といったところである。

 絶望と閉塞、僅かな幸せに情けない主人公たちと、この映画には欧米のインディーズ系に漂うリアリズムの匂いを感じたのだけど、それは韓国の一般観客にとって本能的に回避してしまう「骨董臭」や「違和感」だったのかもしれず、映画マニアには良くても気軽に映画館に来てその場でチョイスする性格の作品では無かったと思う。

 おそらく、最もこの映画に対して魅力を感じて高評価を与えそうなのは、40代から50代の裕福なインテリ層ではないだろうか。
 つまり教養と見識とお金はあっても映画館で映画を観ている時間がない人たちである。

 個人的には良い作品だと思うが、韓国内マーケティングの的を外した感は否めず、さらに1990年代中盤から後半にかけて巻き起こった「新しい韓国映画を自分たちの手で作ろう」的な夢を今だ引きずり続けるようなレトロ感もどこかにあって、後ろ向きな世相に対してどこか差異があることは拭えなかった。
 それもまた韓国で受けがいまいちだった理由なのかもしれない。

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