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Vol.527 ある俳優の死 [韓国カルチャー]

 2015年6月。
 韓国のマスコミで二人の男優の死が報じられた。

 一人は김운하(=김창규)氏(40)で、ソウル市内にある考試院の一室で病死しているところを、もう一人、판영진氏(54)は、高陽市自宅近くの車中で自殺しているところを発見された。

 なぜ、この二人の死が韓国で少々話題になったかと言えば、共に世間では無名の中年男優であり、恒常的に生活苦を抱えていたらしいということであり、それは「韓流」という虚偽から遠い位置にある職業俳優たちの「リアル」でもあったことが大きいと思う。

 「売れない俳優が生活に困っている」。
 そのこと自体は日本でも珍しくない話だし、スターになればなったで「板子一枚下は地獄」な訳だから、「俳優の生活苦がどうたら、社会福祉がどうたら」といった批判に便乗して何かを言う気はサラサラないのだけど、このニュースがなぜ個人的に衝撃的だったかと言えば、筆者は판영진氏が主演した『나비두더지』(2006年度作品/2008年2月22日 韓国一般公開)を、ソウルの映画館で公開当時観ていたからなのである。

 この『나비두더지』という映画は観客動員数が全国で合計126人(!?)であり、いくら主演でも판영진氏を「映画俳優」と平然と呼ぶには違和感をおぼえてしまうのだけど、ワタクシ的には、その年の韓国インディーズ作品中で確実にBESTな一本でもあった。

 いわゆる「アートフィルム」ではあるが、一種の変形サスペンスであり、ダーク・ファンタジーであり、ロケ撮影を上手に活かした特異な世界観の中で、過酷な地下鉄運転手業務に疲れた主人公を판영진氏は好演していたのである。

 劇中の彼は地味で華のない人だったけど、演技は味があったし、なによりもうらぶれてしまった中年男の辛さと孤独がよく滲み出ていて、地下鉄4号線がエンドレスで高架上を走り続ける不気味なラストシーンがとても印象的だった。

 판영진氏の俳優としての経歴はよく分からず、自宅が高陽市だったことから察すると、おそらく俳優業とは別の仕事をしていたか、家族・親戚筋から援助を受けていたのではないかと想像している(実際、主演クラスでも副業で生活を立てている人は珍しくない)。

 김운하氏の孤独死については、かつて筆者が考試院で生活していた経験から考えれば、まさに「韓国のリアル」であって、俳優として基本的に舞台の人だったという話を聞くと、これもまた切なく哀しく思うのだった。

 映画出演本数は김운하氏の方が多いようだが、皆端役であり、その何本かを筆者はソウルで観てはいても、残念なことに誰が彼であったのか、全く記憶に無い。

 二人の死を報道した韓国マスコミ本当の狙いの一つが、毎度おなじみの現政権叩きにあったとすれば、それは別の意味で不幸なことではあるのだけど、なによりも亡くなられた二人のご冥福を祈りたい。

 合掌。

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판영진氏唯一の主演作


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김운하(=김창규)氏、最後の出演作と思われる


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