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Vol.361 韓国演劇界のエースたち『늘근도둑이야기-老いた泥棒の話』 [韓国カルチャー]

 韓国はソウル、恵化にある複合演劇施設『아트원씨어터』へ、2011年2月から暮れまで長期公演が行われている舞台劇『늘근도둑이야기』を観に行く。

 登場人物が三人きりの小さなお話だが、出演者はなかなか豪華で、最近は映画でもお馴染みの김뢰하や、박원상もキャスティングされている。
 残念なことにランダムの日替わり配役なので、行ってみないと誰が出ているのか全くわからない福袋状態。
 だが、韓国を代表する劇団「차이무」のメンバー中心の配役なので、逆に新たなる発見への、よい機会かもしれない。

 劇団「차이무」は著名なスターを何人も輩出している名門だ。
 日本でも有名な송강호は、かつてここ所属で、いまでも繫がりは深いようだし、名優문성근や강신일は今も所属している(2011年末現在)。

 そして、この劇団の顔でもある演出家の이상우は映画『작은 연못』の監督を手掛けている。

 マロニエ公園の裏の裏にある『아트원씨어터』自体も、本来はこの劇団の所有施設らしく、有名OBたちもかなり出資しているという。
 ここの特徴は、有名スターがキャスティングされた演目をコンスタントに上演していることだが、演目も基本的にひどい外れはないので、「韓国で芝居でもみようかなー」と思う人にはお薦めの劇場だ。
 入場料もそんなに高くない。

 私が観に行った時のキャスティングは、まさに日本では「無名」以外の何者でもなかったけど、逆に彼らの演技は韓国における俳優たちの層の厚さや可能性を十分魅せつけてくれるものであった。
 映画の話でいえば、まだまだ、キャスティングの幅があり、未知のスターが発掘される可能性があるということである。

 お話は特赦放免された老境の泥棒二人組が、忍び込んだ美術館で、とある事実を発見したことから起る騒動を描いており、日常生活と政治意識が密接している韓国らしい内容だが、日本でいえば30年前か40年前のコントをだらだらやられているような感じで、非常に疲れる二時間だった。
 言葉の問題も大きいのだけど、他の韓国人観客も一時間を過ぎるとみんなぐったりし始めていたので、やっぱり長くてくどい戯曲だったのだろう。

 ただ、三人の配役自体は素晴らしい。
 私が観たときは、泥棒ふたりに김학선と송재룡、その他すべてを서동갑が演じていたのだけど、大変表現力のある人たちだった。
 皆すでに、TVや映画の仕事をこなしているが、準主演クラスをすぐ張れそうな実力の持ち主ばかりである(主演はまあ、実力以外の色々な思惑が絡むので…)。

 日頃の鍛錬の成果か、筋肉の動きが衣装の下に見えるくらい、演技に脈動感と瞬発力を感じさせる。
 舞台が狭いこともあってか、汗や唾が客席に飛び込みそうになる様は、迫力満点だった(でも、その分、また疲れたけど)。

 上演が始まる前、私の隣に座っていたカップルが席を入れ替えて、劇場担当者に注意されるという出来事があった。

 その時は「ずいぶん規則が厳しい劇場だな」程度にしか思わなかったのだが、演劇が始まると、それが実は演出の一環であることが分かる。
 この舞台は観客参加型の演劇であり、観客席が展示されている美術品に見立てられて、戯曲が進むようになっていたのだ。

 つまり、席を代わろうとした女性は、小道具として、いじられる役割を密かに振られていて、席を変わってしまうと甚だ演出的に都合が悪いわけだ。

 でも、私はいじられたくないので、内心ガタガタ、ブルブル状態。
 韓国ではこういった観客参加型の舞台を割りと見かけるけど、いじった鉾先が日本人じゃ、内容によっては、お互いバツが悪いことになりかねない気もするのだった。

 今回の舞台で目を引いたのは、まず김학선。
 いかにも韓国のインテリ趣味人といった感じのキャラクターで、日本の作品に出ても全く遜色ない安定感がある。

 相棒役の송재룡も非常に上手い人なのだが、ちょっと個性が強すぎて、演出的には置きどころが難しいタイプの俳優だ。
 でも、このくらい強烈な方が、外国の作品では丁度いいかもしれない。

 残る서동갑はその他すべてを引き受ける雑多な役柄だったが、演じる役を変えるたびに周囲にまとう空気感まで変えてしまう巧妙さは驚いた。
 下品なお笑い役から、シビアな二枚目まで演じるのだけど、どれもまったく演技に隙がない上、なかなか、カッコイイ人なのである。
 日本で言えば、稲垣吾郎と田辺誠一を合体させたようなルックスだ。

 韓国の演劇は正直、外国人にはシンドイことが多いし、大学路で上演される作品も、当たり外れがひどかったりする。

 その代わり、日本では無名、韓国でもマイナーな俳優たちの中に、結構すごい人や実力者がまだまだいることを、思い知らされることも多く、今回はそんな舞台であった。
 これからも、第二、第三の송강호や김윤석に続く人たちが、どんどん登場しそうである。
 
 日本のドラマや映画も、こういう人たちを起用して欲しいよな~、知日家も多いし…もったいないです。

老泥棒.jpg
아트원씨어터では2011年12月31日まで。
千秋楽はサプライズがあったりして…


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