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Vol.426 韓国らしいミュージカルだけど…『그날들』 [韓国カルチャー]

 2013年4月4日から6月30日までソウルの大学路ミュージカルセンター大劇場で封切られた『그날들』は、伝説のミュージシャン故김광석の曲をベースに『김종욱 찾기(キム・ジョンオクを探して)』の장유정が書き上げた韓国ならではのオリジナル作品だ。

 出演者はダブルもしくはトリプル、はたまたクアドラプル以上のキャストになっているが、なんといっても話題であり最大の目玉になっているのが、今韓国で最も勢いがある男優の一人、유준상が出演していることだろう。
 日本では홍상수作品の常連として知られているが、韓国では飛ぶ鳥を落とす勢いで人気急上昇中のオールラウンド系の実力派だ。
 유준상の出演は元々回数が少ないこともあってか、公演10日前にも関わらずチケットは売り切れ寸前、なんとか奇跡的にVIP席最後の一枚を入手出来たのは幸運だった。

 ミュージカルセンターはおしゃれで大きく、東崇アートホール隣の隣くらいにある施設だが大学路から隠れているので初めて行く人にはやや分かりづらいかもしれない。
 だが、建物外壁に巨大な看板が掲げてあるから、それほど迷うようなことはない。
 内は意外と狭く構造が入り組んでいて、直感的にどこになにがあるのか把握しにくい韓国らしい設計の建物だ。
 座席は割りと間隔に余裕があり、舞台と距離が近いので後方席であってもミュージカルならそれほど不満はないだろう、といった感じの作りである。

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 『그날들』はそれこそ韓国ならではの物語だろう。
 安重根の伊藤博文暗殺を描いた韓国純正ミュージカル『영웅(英雄)』同様、日本ではミュージカルにしようという発想すら起こりそうにないユニークなネタだが、それがまた、かの国らしいところでもある。
 もっとも、基本は大衆向けエンタテイメントなのでそんなに身構える必要はない。
 『김종욱 찾기』同様、映画化してもいいかもしれない。

 物語は現代から始まる。
 「韓中修交二十周年」を記念した音楽会が開かれ、特殊部隊出身の警備局室長정학(=유준상)はある中国人女性と再会するが、彼女は二十年前に青瓦台で護衛を命じら、ある事件を契機に忽然と姿を消した謎の女人(=김정화)だった。
 やがて舞台はその時代へと遡り、정학とその同僚の무영(=오종혁)、そして女人による大人の三角関係と、大統領家族や職員たちとの交流模様、裏で暗躍する北朝鮮工作員の秘密が描かれて行く。
 最後はうぶな日本人ならドン引きしそうな結末かもしれない。
 だが、深刻なテーマを扱いつつ、あくまでも緩~い腰砕けのコメディだったりするから妙でもある。

 舞台美術は最近流行りのプロジェクターを多用した手法を使っており、雨が降りしきるシーンだけは絶大な効果を上げていたが、全体的に質感がぺらぺらで虚しい。
 楽曲も残念ながらあまり魅力的とは思えなかったが、これは当の韓国人から観ても故김광석の歌に原体験があるかどうかで感動の度合いが全然違うらしいから、仕方ないだろう。
 また、主な登場人物はガチンコな背広姿か軍服が中心なので、舞台いっぱいにいくら歌って踊っても迷彩効果でやたらと視覚的に地味だったりする。

 肝心の유준상は最初、姿を見失うくらい目立たない。
 これは要人警護特有の格好であることが一番の理由だろうけど、元々オーラを常に発しているようなタイプの俳優ではないということかもしれない。
 彼自身、歌を作って歌うことが好きと語っているだけあって歌声は水準以上だが、どうも声の音域があまり広くないらしく、ちょっと余韻に欠ける印象があった。

 良くない意味で目立ったのが、物語のキーを握る謎の女人演じた김정화だろう。
 歌も演技もおぼつかない上、これでいいのか、と思うくらい力がない。
 私が観た時は体の調子が悪かったのだろうか?

 『그날들』は総じて日本人にはピンとこない内容であると共に、国情の違いを超えうる魅力も薄い。
 だから個人的にはあまりおすすめできないのだけど、「韓国らしい」という点では『영웅』と双璧かもしれず、社会学的視点から観るとそれなりに興味深いミュージカルだといえるかもしれない。

(補足)キャストは筆者が観覧時のものです。


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