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Vol.409 二卵性双生児のごとく 『명왕성』 [韓国映画]

 2012年に開催された第25回東京国際映画祭でちょっと話題になった韓国映画に『未熟な犯罪者』がある。
 格差問題で揺れる現代韓国の暗い隙間を描いた作品だったが、それと二卵性双生児のような関係にあるといえそうな作品が、第17回釜山国際映画祭と第63回ベルリン国際映画祭でお披露目された、신수원監督作品『명왕성(英題:Pluto)』(2012)である。

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이다윗と김꽃비

 進学校で起こったある事件を軸に、十代の鬱積した狂気を描いた作品だが、『未熟な犯罪者』と対照的なのは、暗喩的表現を重視した作風であり、登場する高校生たちの多くが裕福な家庭の子弟ばかりである、ということだろう。

 彼らは将来を約束されたエリート高校の優等生たちだが、偏向した価値観がまかり通る閉ざされた世界の中で、どんどん普通の倫理観や道徳観を失ってゆく。
 そこには明るい「未来のビジョン」など無いに等しく、刹那が漂うだけだ。

 その狂った世界に、貧しい母子家庭で育った준(=이다윗)が迷いこむようにやって来て、学年首席の在米韓国人少年테일러(=성준)と、その取り巻きたちに関わったことから、悲劇は幕を開けることになる。

 監督の신수원はソウル大学を卒業し、一旦、中学教師として働いた後に韓国芸術アカデミーで学んだというが、『명왕성』の背景には、彼女自身が青春時代に抱いた「何かが」がかなり反映しているように思える。

 『명왕성』の学生たちは韓国社会の純然たる「勝ち組予備軍」だ。
 舞台となる高校は特殊なエリート校であり、国策を露骨に投影した場ともいえる。
 そこは「学力優先」という点で、平等にチャンスを与えられるはずだったが、実際は貧富の差がそのまま反映した厳密な階級社会であり、学生たちにとって「将来何を目指すか」ということには大きな意味が無く、「成績上位10人」に入り、内外の有名大学に合格することが全てに優先する。
 そして、それを支援し助長しているのが教師と保護者たちなのである。

 『未熟な犯罪者』が三代に渡って「社会の底辺」というエアポケットにはまり込んでしまった親子の悲劇を描いた作品だとすれば、『명왕성』は普通以上の家庭から「社会の頂点」を目指した挙句、ダークサイドに引き込まれてしまった少年・少女たちの無残を描いた映画ともいえるかもしれない。
 優等生たちが質(タチ)の悪いエゴイズムの隘路へ陥ってゆく姿は、彼らの母社会が抱える暗部、裏返しのようだ。

 「成績が良ければなんでもOK、人を殺そうが傷つけようがとにかくOK、だってオレたちは国を背負って立つエリートなんだから」。

 その稚拙さは観ていて苛立つが、ゆとり教育以前の激しい受験競争を経験した世代の日本人にとっては決して他人ごとではないかもしれない。
 だが、それでも受け入れ難い韓国社会の異質さがそこから滲み出てくるのである。

 日本でも韓国でも大抵の人々は成長途中で自分の思い上がりと誤りに気付き、社会へ順応してゆくものだ。
 だが、『未熟な犯罪者』も『冥王星』も、生まれ育った階層が異なるとはいえ、自らを正しフィードバックする機会を喪ってしまった子供たちの悲劇を描いたという点で、極めて相似形の作品だったと思う。

 映画のクライマックス、全てを捨ててしまった준の絶望に被るロケットエンジンのカウント・ダウンこそ、未来を永久に掴み損なった少年たちの破滅を告げるカウントダウンでもあり、最後の爆音と共に脳裏の底でいつまでも轟き続けるのである。

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Vol.408 恐竜になるか、新たな進化か? 『타워』 [韓国映画]

 2012年12月25日クリスマス、韓国映画の大作『타워』の一般公開が始まった。
 物語の舞台も12月25日、年末年始を飾る大イベントである。
 製作費は公称「130億ウォン」、日本で作れば見た目30億円くらいは超えそうな情報量を持つ大作だが、監督が김지훈であることを聞いて、大きな不安を覚えた人、興味を失った人もいたと思う。

 日本でも公開された『화려한 휴가(2007)』や『7광구(2011)』など、コンスタントに大作を手がけている監督だが、とにかく雑で大味、子供が作ったようなプロットばかり(でも分かり易い)で、登場人物は紋切り型丸出しだ。
 だが、今時の韓国映画界で、こんなにハッタリを効かせた大作を作ることが出来るのは、김지훈と大御所강제규くらい、だから作品の「良い・悪い」を100%別にして、やっぱり注目のクリエイターなのだ。

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 今回の『타워』も、今さらソウルを舞台にして、1974年の『タワーリング・インフェルノ(The Towering Inferno)』をやろうしている点で、純粋というか、天然というか、変に拗ねていないところに逆に好感が持てたりする。

 私がこの映画の製作状況を具体的に耳にしたのは『7광구』が公開された年の秋くらいだったろうか。
 行きつけの飲み屋で偶然知り合った人物が、偶然にも『타워』撮影班の人で「明日、朝からヘリコプターに乗って、テスト撮影やるんですよ」と語っていたのが最初だけど、そう思えば随分早く完成できたものだとも思う。
 その時点では3Dにするかどうか決まっていなかったが、結局、2D上映となった。

 『타워』は上映が始まると、しばらく空撮シーンが続く。
 「彼が担当したんだろうな~」などと思いつつ観ていたけど、ここら辺から既に『タワーリング・インフェルノ』丸出しだったりする。
 カメラは空から漢江に沿って江南周辺から麻浦、舞台になる永登浦へと辿って行くのだが、韓国ゼネコン見本市みたいになっていて、物語の伏線であると共に建物は立派でもスカスカで活気がない街の様子は「やっぱりソウルだ」感も否めない。

 舞台となる架空のツインタワービル「Tower Sky」は、片方がビジネス用、もう片方が住居用という設定。
 立地場所が永登浦の端にある寂しいオフィス街だから、お金持ちが住む場所として魅力的とは思えないのだが、居住区の連中は韓国社会の権力者、基本的に地下鉄やバスに乗る必要がなく、辺りに住んでいる庶民と関わることもない人たちなので、そこら辺は意外と世相を皮肉っているように見えなくもない。

 映画の展開も、ほとんど『タワーリング・インフェルノ』である。
 ネタが同じなので似たような話になってしまうのは致し方ないが、リスペクトととるか、デッドコピーと見るか、リ・イマジネーションと解釈するかは人それぞれ。
 ビル火災の原因が「自画自賛していたら、滑って転んで自爆」という、いかにも韓国パターンなのが笑せてくれたが、時代を感じさせるのが、アメリカの9.11事件が大きく投影されている、ということである(でもテロネタではありません)。

 ビル火災自体はあっさりと鎮火、オープン前だから人命救出もサクサクと順調に進んでしまうが、元祖と異なる点は、建物の構造が劣化し、崩壊してしまう危機に見舞われることである。
 そこに必殺のタイムリミットが設定され、その危機をどう回避するかが映画後半の見せ場となる。

 一番の欠点はたぶん、上映時間が短いことだろう。
 ダイジェスト版ぽくなってしまっており、群像劇としては底が浅く、パニック・サスペンスとしても迫力が無く(燃え上がるビルの映像はいいんですけどね…)、やはり3時間近い上映時間が必要な内容だと思う。

 面白いかどうか聞かれたら、かなり微妙だが、김지훈監督作品ではたぶん一番観て損しない映画だったと思うし、落ち着かない子供たちを連れて行くには丁度いい家族向け娯楽作にはちゃんと仕上がってはいる。
 歯切れの悪い展開に不自然アングルと妙なカット割り、豪華だが生彩のない出演陣と、相変わらずだけど、日本でも料金が安くなるサービスデーであれば「金返せ!」にはならないだろう。

 そもそもこの『타워』、韓国の大手映画会社が自前の劇場チェーンを全開にして仕掛けた年末イベント、刹那的に映画館を訪れ、ナチョスやらポップコーン抱えて(時には辺りにブチまけて)、スマートフォンいじりつつ、おしゃべりしつつ「でれっ」とだらしなく観るのが正しい見方なのである。

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残念ながら、チラシのコンプリートはならず

 コアな映画ファンからすれば年末興行を乗っ取った元凶ということになるだろうし、2012年末に上映されるはずだった『るろうに剣心』や『劇場版 魔法少女まどか☆マギガ』の韓国公開が延びてしまったのは、おそらく『타워』の興行と無関係ではないだろうけど、韓国人に「どうだ、オレたちって凄いだろ~」と自慢されても仕方ない程度の大作であることは素直に認めたい。

 強引なブロックバスター興行のお陰で、損益分岐点ということになっている500万人動員を成し遂げることは出来たけど、全面対決になった『レ・ミゼラブル(Les Miserables)』を越えられそうにもないところもまた、韓国の肝入り大作らしいところだろう。

(『レ・ミゼラブル』は一週間早い公開ですが、2013年2月第1週の時点で583万人動員、今だ上映中、『타워』の方は513万人動員で、興行は既に終了となっています)

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映画とは全く関係ありません

(特報)
2013年、「新・午前十時の映画祭」にて、『タワーリング・インフェルノ』DCP版が上映されます!こっちの方が注目!


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Vol.407 2012年度韓国映画BEST+α Part2 [韓国映画]

 本命の作品部門は次の通りですが、正直、不本意な結果に。
 「好き・嫌い」「良い・悪い」ではなく、「鮮烈さ」を基準に選んでみました。
【注目すべき作品】※順不同
2011年12月から2012年11月に公開された作品を対象とします。

『マイウェイ 12,000キロの真実(마이웨이)』
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(2011年度:韓国一般公開2011.12.21)
 色々なところでボロクソに書かれ、大失敗作として評価が定まった感もありますが、その裏側には、口当たりいい言葉をいくら並べても、粉飾し切れない日韓のネガティブな現実があったと思います。
 手掛けたのが大物강제규だった、ということも事件でした。


『줄탁동시』
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(2011年度:韓国一般公開日2012.03.01)
 未成年の脱北者を通して、セーフネットを欠いた韓国社会の無情を描きます。
 乙支路で行われた長回しの移動ショットは戦慄の名シーン!


『은교』
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(2012年度:韓国一般公開2012.04.25)
 韓国の『Lolita』ともいえそうな作品、文学と映画のリズムが上手にミックスされた稀有な韓国映画だったと思います。
 出演者の好演に加えて、정지우監督独特の語り口が生きています。


『트로피컬 마닐라』
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(2008年度:韓国一般公開日2012.04.26)
 どちらかといえばWORST系、ウケ狙い的な悪趣味さに満ちていますが、実は随所に描かれた人間ドラマがキラリと光り、そこら辺を注目して欲しい作品です。


『파닥파닥』
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(2012年度:韓国一般公開2012.07.25)
 夏休みに便乗したのはいいものの、マーケティングが全く行き違ってしまったようです。
 しかしながら、2011年の『소중한 날의 꿈(Greendays~大切な日の夢~)』『돼지의 왕(豚の王)』に続いて、韓国長編アニメーションのあるべき方向性を示したともいえるでしょう。
 救いのない展開ながらも、感動的なラストシーンが心に強く残ります。


『미국의 바람과 불』
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(2011年度:韓国一般公開2012.07.26)
 カメラが切り取ったものだけを淡々と並べる話法が冴えわたります。
 日本のマスコミ報道からは決して見えてこない光復節以降の韓国が抱えるトラウマを描いたドキュメンタリーですが、使っている映像も貴重なものばかり、これだけでも観る価値があります。


『바비』
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(2012年度:韓国一般公開2012.10.25)
 ちょっとヤバ系に見えますが、韓国における家族のあり方や米国コンプレックスを痛烈に揶揄した作品です。
 이상우作品としてはもっとも普遍的な一本であり、ちょっとだけ若かりし頃のキム・ギドク(김기덕)作品群と重なります。


『남쪽으로 간다』
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(2012年度:韓国一般公開2012.11.15)
 暗くネガティブに、そしてセクシャルにゲイピープルを描く이송희일監督の中編。
 地味で単調な作品ですが、衝撃的なラストシーンは作り手の呵責なき姿勢を感じさせます。


『26년』
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(2012年度:韓国一般公開2012.11.29)
 元大統領の暗殺計画を描くトンデモ系ですが、韓国だからこそ作り得た意欲作。
 こういう映画が市井の人たち支援の元に製作されて、ヒットするのも、韓国らしいところでしょう。
 かの国の暗澹たる未来を暗示するかのようなラストシーンは秀逸!

 2012年度は演劇部門を設けてみました。
 韓国芸能界を実質、裏で担っているのは日本で喧伝されている「K-POP」でも「韓国TVドラマ」でもなく、「演劇なのでは?」というくらい、韓国では盛んです。
 機会があれば、中規模以下の舞台をお勧めします。
【演劇部門】
심영은
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出演作:『서툰 사람들(2012年版)』
 チャンジン(장진)の舞台では、著名な共演者たちを凌駕する好演を見せてくれました。
 でも、映画やTVでは案外、パッとしない人だったりして。

『에어로빅 보이즈』
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 韓国らしいウェットな展開ですが、現代的な軽快さと漫画的な面白さ、そして現代社会を憂える真摯さを併せ持った作品です。
 映画化したら、絶対に面白い!

 2012年は観た本数が少なかった上、メジャーにしても独立系にしても心躍るような作品がほとんど見い出だせない一年でした。


 2013年も数字の上でこそ、マーケティング先導型の「大ヒット作」は出るでしょうが、中身が伴うかどうかは別の話。

 スターと派手なシーンばかり集めた作品よりも、「心ある映画」を観客は求めているはずです。

 インディーズも、本数が多いだけでワンパターンさが目につきます。

 金銭的な制限を超えうる「才能」が登場することをこれからも期待したいと願っています。


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Vol.406 2012年韓国映画BEST+α Part1 [韓国映画]

 恒例の年間韓国映画BESTを発表します。
 韓国で2011年12月から2012年11月に公開され、現地で鑑賞した韓国映画(合作を含む)を対象としていますが、韓国での公開日が基準になるため、一部作品は製作年度が2011年より前になっています。

 それでは、俳優部門から。
【注目すべき俳優たち】

김고은
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出演作:『은교』
 大胆な演技と圧倒的な存在感は、パク・ヘイル(박해일)の老け役も霞むばかりですが、若い女優にありがちな「最初で最後の輝き」になってしまわないかが、ちょいと心配です。

이정현
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出演作:『범죄소년』
 よく見かける可愛い系女優かと思いきや、実はしたたかさすら感じさせる演技派、随所で見せる卑屈な表情が素晴らしい限り。

류현경
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出演作:『두 번의 결혼식과 한 번의 장례식』
 肝心の男優たちを押しのけて、彼女の魅力が炸裂!するのが愉快だったりします。

한예리
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出演作:『코리아』
 お人形さんキャラが並ぶ中で、人間としての苦悩を感じさせるキャラクターを好演し、強烈な印象を残しました。

김무열
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出演作:『은교』
 個人的には最近お気に入りの一人ですが、脇役ではキラリと光るのに、『개들의 전쟁』のように主演をやると全然パッとしない不思議な人だったりします。

Jerald De Vera
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出演作:『트로피컬 마닐라』
 韓国人の父親を徹底して憎むその視線は、演技とは思えない迫力に満ちており、ギラギラ感と優しさの矛盾が素晴らしい。

이바울
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出演作:『줄탁동시』
 怒りと孤独に翻弄される脱北少年の姿は衝撃的、男娼として初めて客をとる時に彼が見せる悲痛な表情は迫真の演技です。

박정표
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出演作:『두 번의 결혼식과 한 번의 장례식』
 ミュージカルで活躍している俳優ですが、韓国映画オカマキャラの中でたぶんベスト10に入る好演を見せます。

광어(声:현경수)
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出演作:『파닥파닥』
 最初は暴君として君臨するヒラメが、サバに感化され、昔の気持ちを取り戻して行く姿は、拍手ものの感動です。

이광수
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出演作:『아버지는 개다』
 정지우作品における定番記号を演じていますが、なにげで巧みな演技力を見せます

오정세
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出演作:『시체가 돌아왔다』
 作品自体は懲りすぎて自爆、といった感じですが、劇中一番笑わせてくれたのが、この人のオトボケぶり。
 
続いて監督部門です。
【注目すべき監督たち】

이상우監督
主な作品:『바비』『아버지는 개다』その他

 2012年に公開されたインディーズ作品の中で最もプロモーションされた監督の一人。
 作風はキム・ギドク(김기덕)作品後追いといった感じで、過剰なエログロ描写やアンモラルな物語も、ウケ狙いの計算高さばかりを感じ、斬新さはありませんが、その陰に隠れた家族ドラマが、かなり巧みでギラリと光ります。
 キッチュ路線より普通な作品の方が開花しそうな人。
 『바비』はその折り合いをつける試みを行った作品かもしれません。

정지우監督
主な作品:『은교』『모던 보이』『해피 엔드』その他
 独特の語り口を持ちながら、方向性を見失っていた感が否めませんが、『은교』にて、その魅力を取り戻すことができた、といえるかもしれません。
 万人向けヒット作を作るタイプではありませんが、再評価すべき監督でしょう。

김경만監督
主な作品:『미국의 바람과 불』その他
 最近、韓国のミニシアター系ではドキュメンタリーばかりでうんざり、その中で光るのが김경만監督の作品群です。
 ナレーションを一切廃止し、劇的な構成を避けた語り口は淡々としていますが、ドキュメンタリーの新しい可能性を引き出しました。
 ありそうでなかった特異な個性が光るクリエイターです。

(Part2へ続く)

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Vol.402 明けましておめでとうございます [韓国映画]

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 謹賀新年。
 昨年、私のブログにお付き合い頂いた皆様方に感謝申し上げます。
 諸々の事情により、記事を上げることが難しくなっていますが、今年も細々ながらなんとか続けられれば、と願っております。
 日韓関係を含め、極東情勢は今後もシビアになり続けると思いますが、歴史は繰り返す、ということなのでしょうか。
 世知辛い世の中ですが、人の英知を信じてみたいこの頃です。
 (서울某所にて)

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Vol.393 貧乏臭くて田舎臭いピカレスク・ロマン 『도둑들』 [韓国映画]

 2012年7月25日に韓国で公開された『도둑들』は、今までの社会的なテーマをこれ見よがしにぶら下げた韓国映画とは違い、純粋な娯楽映画としての韓国映画として、観客動員1000万人を超えた、ということが話題になった。
 当初は5月公開予定だったが、夏休みに公開を延期したことも動員数に結びついたのだろう。

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 顔ぶれは김윤석を筆頭に전지현、김혜수、이정재と、ミーハーな意味で分かりやすい豪華さだが、かえって無用な派手さが目立ち、映画に対して目の肥えた観客にとっては相当、魅力に劣ることは否めない。
 そんな空虚な韓国勢とは逆に、お客さん出演のSimon YamとAngelica Leeの方が全然いい味を出していたりする。

 日本でもそこそこメジャーな전지현は、相変わらず、やる気が無いようにしか見えないが、とりあえず『도둑들』では、ここ数年で一番マシな仕事をしている。
 だが【『엽기적인 그녀』の一発屋】というイメージは覆せなかった。

 大学路の舞台から飛び出た演技派김윤석も、いい加減、映画に出過ぎ。
 そのビジネスライクさは、観る側を大いに白けさせてくれるけど、俳優としての意欲を失いつつあるのではないか?
 チャラけた映画になんか出演しないで、一刻も早く、舞台に戻って欲しいと思う。

 その一方で、意外な好演だったのが、今では忘れられた感のある이정재だ。
 彼は二十代の頃、最も注目を浴びた若手映画スターの一人だったが、日本に来た際の「俺様」ぶりが鼻についたので、「今の時代、30歳過ぎたら、難しいタイプの俳優だな」と思っていたのだが、30歳過ぎたら、ほどよくキャラが丸くなり、今では名バイプレイヤーになる可能性すら出てきた。
 でも、映画スター後発組の오달수と同列扱いだったことは、時代の趨勢を感じさせる。

 物語は、日本で盗まれた巨大ダイヤモンド「太陽の涙」(←これがまた安っぽい)をめぐる、悪党たちの虚々実々な駆け引きを描いたピカレスクもの。
 映画はシンプルにまとめられており、派手なアクションが全編に散りばめられて、見所は多く、特にビル壁面で展開するバーチカルな銃撃戦は、今の日本映画界では絶対無理だろう。

 でも、なぜか見た目が派手にもかかわらず、迫力がないのだ。
 「現場は大変だったろう」とは思うのだけど、ちっとも血沸き肉踊らず、手に汗握らない。

 映画の上映時間は135分、최동훈監督作品らしい長尺だが、観客を飽きさせないギリギリの長さといったところ。
 だが、話がギュウギュウなので、微妙だ。
 
 この映画の第一印象は、「田舎臭くて、貧乏臭い」ということだろう。
 製作者側は「カッコイイ映画」「オシャレでゴージャスな娯楽作」を目指したのかもしれないが、『도둑들』から漂うのは、田舎の縁側で昼寝をしている時に嗅いでいた臭いなのである。
 최동훈監督の作品はいつも、韓国土着のリアリズムと背中合わせだが、今回は表向きが派手な分だけ、単に肥やし臭くなってしまったようだ。

 前作『전우치』や『타짜』の場合、そこら辺が韓国映画らしい個性でもあり、作家性でもあって、特に『타짜』は、原作の好変換例として機能していたと思うのだが、『도둑들』の場合は逆のような気がする。
 その泥臭さに親しみやリアリズムを感じるか、発酵した臭さを感じるか、観る人の原体験で、賛否評価が分かれそうだ。 
 都市部よりも田舎街の方がウケたんじゃ、ないだろうか?

 よく言えば堅実、悪く言えば極保守的な娯楽作、「二昔前の香港映画モドキ」か「十年前のいまさらな韓国映画」にも観え、残念ながら、映画の中に新しい輝きを見い出せなかった。

 結局、「韓国内動員1000万人」を超える原動力になったのは、韓国市場において「観客は新しいことなど何も求めていない」という、韓国的現実だったのかもしれない。

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Vol.390 別の意味で凍えた 『凍える牙(하울링)』 [韓国映画]

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 『하울링』が先日、日本で公開されたので観る。
 韓国映画をよく掛ける某劇場だったら絶対に行かなかったが、あいにく設備のまともなシネコンで上映されたので、気は乗らないが行ってみた。

 主演は송강호と이나영、監督は유하、原作が乃南アサの『凍える牙』というビミョーな企画。
 韓国公開は2012年2月16日、観客動員数は約158万人なので、まあまあ、といったところだろうか。

 原作は、フェミニズム小説の一面も持ち合わせた意外と地味な作品だが、当然ながら、韓国の風土に合わせたアレンジが行われている。
 その脚色自体は悪くない。

 だが、原作者の語り部であるヒロインは影の薄いお人形と化し、冴えないおっさん刑事の方が主人公になってしまった。
 オオカミ犬の暗躍ぶりも、飼い主と娘の悲劇も、イマイチ。

 この映画が日本で公開された理由の一つは、有名な原作に依るところが大きいと思うが、韓国で映画化された動機もまた、似たようなものだったのではないだろうか。

 韓国では警察小説はSF小説と並んで不人気なジャンルだが、乃南アサの小説は、若い女性層を中心に、例外的な支持を受けているらしい。
 それは、女性の手による、マッチョイズム対峙の小説でもあったからだと思うのだけど、今回の映画は、それを男性側の視点へ変換した、といった方が近いかもしれない。

 監督유하が、原作の硬派なフェミニズムを、どう解釈して映画化したのかは分からないけど、彼の「男に熱く、女に冷たい」ところは相変わらずなので、유하らしい個性が滲み出た映画だったとは言えるだろう。

 元々、社会派詩人として名を成した유하の手がける映画は、ベタの直球に見えて、実際は意地の悪い変化球だったりする。

 一躍、映画監督としてメジャーになった第二作『결혼은 미친 짓이다』は、엄정화を女優として再ブレイクさせるきっかけにもなったが、韓国人女性から観た、韓国人男性の浅ましさを、これまた男性の視点で描いたという、入れ子のような視点の映画だった。

 それから約10年。
 「유하も普通の映画監督になったんだ」などと思ってしまうのである。

 『하울링』の第一印象は、とにかく熱が感じられないことだ。
 スタッフも出演者も、テキパキと働く現場が目に浮かぶけど、「ルーチンワーク」という言葉も脳裏を横切る。
 それは、유하の映画的キャリアと、韓国映画のイケイケドンドン期が重なっていたからかもしれないが、とにかく、醒めた映画なのだ。

 主演の송강호は、やる気の無さが既に芸風として確立されてしまったように見える。
 송강호ほどの実力があれば、韓国以外でも十分やっていけると常々思うのだけど、今更、そんな気は全くないのだろう。
 이나영は、それなりに歳とったけど、いつもと同じ、これからも変わらないんだろう。

 『하울링』の熱の無さとは、映画産業においてビジネスモデルが確立されて、それが定着してしまうと後は衰退するばかり、ということなのかもしれず、韓国映画が緩い死を迎えつつあることもまた、象徴していたのかもしれない。

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Vol.389 愛することさえ許されない 『두 번의 결혼식과 한 번의 장례식』 [韓国映画]

 
(あらすじ)
総合病院に勤務するゲイの若手医師민수(=김동윤)はフランス留学から戻った後、家族や周囲への建前上、韓国男子として生きてゆくために、同僚の女性医師でレズビアンの효진(=류현경)と偽装結婚をする。
민수は実質フリーだったが、효진には、서영(=정애연)という大学時代からの連れ合いがいた。
민수には、よく通う女人禁制のゲイバーがあり、ママの경남(=이승준)の元、常連達が集い、愚痴をこぼしている。
ある日、민수は階段ですれ違ったミュージシャンの석(=송용진)に運命の出会いを直感し、やがて二人は恋人として付き合い始めるが、석には結婚を控えた弟(=유연석)がいて、彼は兄がゲイであることを激しく非難していた。
やがて、민수と서영の間にも危機が訪れる。
효진と서영の夫婦関係が嘘ではないかと、病院内で噂になってしまったのだ。
同性愛者が迫害される韓国に嫌気がさした민수は、석に一緒にフランスに行くよう迫るが、석はそれを拒否する。
傷心の민수は、泥酔した夜、友人の티나(=박정표)の元に泊まる。
티나は優しい性格だったが、パートナーに恵まれず、いつも傷ついていた。
何事もなく一夜を過ごした二人だったが、민수がiPhoneを置き忘れたことから、思わぬ悲劇が訪れる。
 2012年6月21日に韓国で公開された김조광수監督の新作『두 번의 결혼식과 한 번의 장례식』は、韓国で生きるゲイピープルの喜怒哀楽を独特のタッチで朗らかに描いた作品だ。

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 厳密にいえば、韓国で酷い偏見と差別にさらされる彼らの苦悩を切実に描いているが、決して深刻に、憂鬱に陥ること無く、明るい未来志向にあふれた物語になっている。

 日本でもそこそこ反響があった前作『친구 사이?』は、一時間を切る中編であり、兵役に就く社会人未満の若者が主役だったが、今回は106分の長編、登場するキャラクターは、社会的地位のある大人たちだ。
 
 物語の焦点はあくまでも男たちなので、女性たちの描き方はどうしても弱いが、효진役の류현경の小悪魔ぶりと、서영役の정애연のボーイッシュな魅力は、映画が単調になることを防いだ。

 だが、この『두 번의 결혼식과 한 번의 장례식』で一番の忘れがたいキャラだったのは、やはり박정표演じる、티나だろう。

 티나は心優しく朗らかだが、その容姿ゆえ、恋人に恵まれず、本当はひどく傷ついてもいる。
 家族も決して彼のことを理解しているわけではなく、愛犬광수だけが心の拠り所だ。
 彼は姉の雑貨屋を手伝っているだけの貧しいフリーターに過ぎず、相手を探してゲイバーで使うお金の捻出だって、決して楽ではないはず。

 一方、彼の友人である主人公の민수は、その티나と対照的な位置にいる。
 なぜなら、彼らは医者という仕事に就き、いつでも韓国を捨てることが出来る裕福なインテリだからだ。

 最初は単なる笑わせ役かと思われたテナだったが、物語が進行するにつれて、この『두 번의 결혼식과 한 번의 장례식』という作品が、セクシャリズムの問題を超えた、人の平等・不平等も描こうとしていたことに気付かされる。

 考えすぎかも知れないが、ここにもまた、ジェンダーの問題を超えて、韓国の格差問題が見え隠れしているのである。

 さて、この作品を観た当日、監督の김조광수がゲストとして劇場を訪れ、ディスカッションを行った。
 近所に事務所があるらしい。

 鉄腕アトムが描かれた真っ赤なTシャツを来て現れた、モジャモジャ頭の彼は、写真で観るよりも男っぽく、落ち着いた佇まいだ。

 海外でもゲイ恐怖症の人々が韓国に劣らずいることや、初めて監督として参加した釜山交際映画祭では煌々たる巨匠に囲まれ、びびった話などを面白おかしく語るけど、基本的には真面目な感じの人であった(でも基本はオネエです)。

 困ったことに、彼が語る時間は、どんどん伸びて行き、21時から始まって、一時間程度で終わるかな?と思っていたのだが、23時30分過ぎても終わらない!
 そして、そんな김조광수の姿を見ていると、あるデジャブが襲いかかる。

 誰だっけ?誰だっけ?誰だっけ?どこかでよく見かけたような…
 そうだ!
 楳図かずおだ!

 そう、김조광수という人は、漫画家の楳図かずおに、キャラクターが、よーく似ているのだ。

 劇場から退出する際、観客の一人ひとりに「ありがとうございます」と謙虚に頭を下げる彼を見ながら、楳図かずおと対談やったら、面白いなぁ~などと、どうしても考えてしまうのだった…
(ちなみに、観に来た男性客は三人程度、内二人が私を含めて外国人、後は女性客ばかりでした)

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Vol.388 ハチャメチャ空軍大戦略 『R2B 알투비 리턴투베이스』 [韓国映画]


 (あらすじ)
 韓国空軍が世界に誇るエリート部隊「ブラック・イーグル」。

 そこに所属するパイロットの태훈(=비こと정지훈)は、これまた韓国が世界に誇る一応、国産のジェット機T-50Bを使ったエアショーでの曲芸飛行中、リーダーの命令を200%無視して、禁じ手の荒業を勝手に行い、民間人を巻き込んで、大騒ぎを起こす。

 だが「ブラック・イーグル」を辞めさせられただけで、韓国空軍が世界に誇るF-15Kの所属する21戦2B部隊に編入するだけで済んでしまう。

 そこには、堅物過ぎて突っ立ているだけにしか見えない上官철희(=유준상)がいたが、キャラクターが真逆過ぎて対立、だが、俺様天狗の태훈は、模擬戦闘で、철희に完全に負けてしまい、その天狗の鼻はポッキリ。

 悔しくて夜も眠れない태훈は、次の技能大会でリベンジするために、可愛すぎて部隊内の野郎どもに悪影響を及ぼしている美人整備士官세영(=신세경)を丸め込み、ブレインにするが、本当の目的は彼女をモノにすることだった。

 やる気のない整備部隊のベテラン士官(=오달수)も篭絡した태훈は、세영へのナンパ工作と、「俺様No.1」の悪だくみを進めてゆく。

 同じ頃、北朝鮮のエースパイロットが操るMIG29が故障のふりをして韓国に侵入し、ソウルの永登浦上空でF-15Kと空中戦をやって、大騒ぎを起こすが、明らかに死傷者が多数出ている状況にも関わらず、誰も責任を取らないで済んでしまう。
 だが、それは、さらなる大迷惑な前兆に過ぎなかった。

 北朝鮮内部では、ウォンサンにある大陸弾道ミサイル基地が、クーデターで乗っ取られるという、とんでもない事態が発生していたのである。
 韓国側は、アメリカがポヤっとしている隙に、世界に誇るF-15KとT-50Bで攻撃を開始する。

 当然、アメリカ側は激怒するが、韓国側は「我々の問題だ!」と逆ギレ。

 T-50Bを操る身勝手태훈は、北朝鮮の悪だくみを阻止して、ワールドワイドなヒーローになれるか!?
 韓国史上、一世一代のハチャメチャ空軍大戦略が始まった!
 2012年8月14日に韓国で公開された『알투비:리턴투베이스』は完成までに一年かかった労作である(某友人談)。

 元々は古典的名作『빨간 마후라』のリメイクとして起動した企画で、韓国空軍全面協力の下、ご自慢のF-15Kや、自主開発(一応)のT-50Bが轟音を発ててスクリーンを所狭しと飛び回り、実機ではなくCGIだが北朝鮮のMIG29まで出てくる。
 そして永登浦上空で空中戦を繰り広げ、最後は北のエースパイロットとのガチンコ対決に、決死のミサイル基地空爆と、消化不良を起こしそうなてんこ盛り状態。

 これだけ聞くと、まさに飛行機好きには堪えられない映画に思えるし、全面協力した韓国空軍も、それを期待していたと思う。
 だが、残念ながら、映画はハチャメチャでツッコミどころ満載の珍作になってしまった。

 韓国空軍エリートたちの青春群像だけを、地道に描いていれば好編になったかもしれないが、北朝鮮の軍事クーデターに、国際平和をリードする韓国軍の勇姿と、やり過ぎ、欲張り過ぎて空中大爆発。

 登場する軍人たちは、信じられないくらいデタラメで自分勝手、常識欠如の連中ばかり。
 どう考えても、こりゃあ、マズイんじゃないの????

 冒頭から、その稚拙な展開に目を疑う。
 一般大衆が集うエアショーで、目立ちたがり屋のパイロット、태훈が勝手に編隊を離れて、禁じ手の技で暴走するという、信じられない行動に出るのだが、「ブラックイーグルス」のメンバーから外されるだけで済んでしまう。

 ええ!!?

 これが現実なら、かなりの上官クラス辞任問題まで発展すること必至。
 いくらなんでも「映画だからOK!」というレベルを踏み外している。

 태훈を取り巻く、他の連中もデタラメぶりがひどい。
 ヤル気がない先輩パイロットたちはまだ、ご愛嬌としても、勤務中に酒を飲んで泥酔する士官が出てくる有様。
 しかも、それをけしかけるのが、またあのジコチューな태훈だったりする。

 オ・ダルスは特別出演だが、整備中のF-15Kのエアインテークの中で、平気で昼寝してサボっているような、単なる税金泥棒。

 韓国空軍のプロパガンダが目的のはずなのに、よくもまあ、こんなシナリオに空軍からOKが出たものだと呆れてしまう。
 これじゃ、遠まわしの軍批判。

 北朝鮮側との空中戦は、VFXレベルが高いので、MIG29がCGIでも気にならないんだけど(日本の業界人は嫉妬してケチつけるだろうが)、それを差し引いても、永登浦上空の空中戦は、あまりにも配慮が足りない。

 なにせ、MIG29が発射した機関砲弾が街の人々に降りかかり、誤射されたミサイルが関係ない自動車を吹き飛ばし、挙げ句の果てに、63ビルに向けて思いっきりジェットエンジンを吹かすので、中にいる人はたまったものではない。

 見せ場としては派手だろうが、その陰で起こっている惨事は全てスルー。
 でも、そりゃないだろう。
 お手本にしたと思われる『トランスフォーマー』だって、ここまでデタラメではなかった。

 北朝鮮側も、単なるヒール。
 軍内部のクーデターでICBM基地が占拠されても、大した大騒ぎにならないし、相変わらず中国の「C」の字すら出てこない

 当然ながら、事態を収拾するためにアメリカ空軍が出てきて、爆撃を主張するのだが、韓国側は独断でF-15KとT-50を攻撃に向かわせてしまうのである。
 どうせ北のミサイルで最終的に迷惑を被るのは、日本というオチかい?

 とにかく、最初から最後まで、真面目に勤務している軍人その他をバカにしているとしか思えない映画になっているのだ。

 このハチャメチャな展開は、マンガだったら許されるかもしれないし、面白かったとは思うのだけど、映画となれば話は別。
 そこら辺を企画側は大きく履き違えた。

 大スクリーンで轟音を上げて飛び回るご自慢のF-15Kの勇姿はカッコイイ。
 だが、客席には誰もいない。
 その対比が、とても、とても哀しい、哀しい映画なのだった。

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この映画に出てくる飛行機は全て韓国アカデミー科学からプラモデルとして販売されています(結局、税金を使って一番儲けたのは誰??)。

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Vol.387 『パタパタ(파닥파닥)』 それは抗う鯖の物語 [韓国映画]

サバ1.jpg
『花開くコリア・アニメーション2014』にて公開
(3月7日から大阪・東京・名古屋で順次開催予定)
(STORY)
 サバ(声:김현지)は漁船に捕獲され、気が付いた時には港の市場にいた。
 そこで脱出を図るが失敗、刺身屋の親父(声:시영준)に拾われ、海辺にある店の水槽に入れられてしまう。
 だが、そこは目の前で捌かれ、食べられるのを待つだけの、生き地獄だった。
 サバが入れられた水槽は、牢名主同然のヒラメ(声:시영준)の下、アナゴ(声:이호산)やタイ(声:안영미)、スズキ(声:이호산)にイシダイ(声:현경수)、アイナメ(声:안영미)たちが冷酷なヒエラルキー統制によって暮らしていた。
 人間の客が来れば死んだふりをしてその場を凌ぎ、弱った新入りが来れば、殺して食べてしまう。
 古参ヒラメの命令は絶対であり、一日でも長く生き延びるために、決して目立ってはいけないのだ。
 だが、サバは傷つきながらも、何度も脱出を試みる。
 彼は水槽の秩序を犯す存在だったが、殺される危険を犯してでも逃げる希望を諦めないその姿は、徐々に周りを変えてゆくが、サバを待ち受ける運命は残酷だった…
 2012年7月25日、韓国で一般公開されたアニメーション作品『파닥파닥』はポスターだけ見ると、まるでディズニー&ピクサーの『ファインディング・ニモ』韓国版のようだ。

 私もてっきり、夏休みにおける家族層狙いの作品かと思って劇場に赴いたのだが、上映場所は、アート系シアターばかり。
 なぜだろうと思って映画を観るが、始まってからすぐ、その理由が分かる。
 そう、この『파닥파닥』は家族連れの期待を逆なでするかのような、残酷で哀しい物語なのだ。

 リアリズム志向の映像はディティールが凝っていて、水槽の中にいる魚たちの視点に徹しているが、これがまた、シビアで夢も希望もない。

 そこでの暮らしは、自分も含め、突然仲間が連れ去られ、目の前で解体されて、生きながら食べられてしまう様を毎日、死ぬまで観ていなくてはならないのである。

 水槽の魚たちも、助け合うどころか、醜悪なヒエラルキーの中で日々を過ごしている。
 その関係は歪んでいて、仲間殺しやリンチが平然と行われる。

 この作品は『ファインディング・ニモ』の如くマーケティングが展開されたが、家族連れからクレームが殺到したという。
 だが、それもまた、ヘンな話であり、よくある韓国社会におけるアニメーションへの偏見が大きな原因であって、作品の責任では決してないはずだ。

 なぜなら、この『파닥파닥』は、残酷さ故に感動的であり、教訓に富んだ作品になっているからだ。
 そして、韓国映画伝統の「シュール&グロテスク」を立派に引き継いだ、作家性の濃い作品でもある。

 2011年は、韓国アニメーション作品『마당을 나온 암탉』と『돼지의 왕』が韓国内でヒットしたが、この『파닥파닥』もまた、それら作品群のシビア路線にあり、シュールという点では、韓国的なものを更に突き詰めた作品といえるかもしれない。

 あえてネタバレを書くが、主人公のサバは結局、海に逃げることに失敗して物語は終わる。

 無謀な脱出のたびに、体も精神もボロボロになって行き、最後はその努力が実らない結末は非常に酷いが、サバの無鉄砲でひたむきな姿は、ひねて冷酷になってしまった水槽の仲間たちを大きく変えてゆくのである。

 最後、凶悪そのものにしか見えなかった古参のヒラメが、サバによって変わってゆく姿はワンパターンではあるが、この作品における唯一の救いかもしれない。

 ヒラメが海へ脱出を図った際、脳裏に「もう少し、もう少しだよ」という響くサバの囁きは、現代を生きる大人たちへの励ましにも、その逆にも思える。

 そして、海に飛び込む直前、刺身屋の親父に捕まった時、ヒラメの運命を決める【あるもの】は、サバが遺した抵抗の象徴として、大きな感動を生むことになるのである。

 リベラルな闖入者によって、硬直した保守派が変質して行くという構図は、物語における王道パターンの一つではあるけれども、『파닥파닥』の場合、若者が老いたもの希望の礎となってゆく。

 そこには、家族向けのノーテンキでご都合主義的な展開を見出すことは当然ながら無理であり、監督の이대희も、そんな作品を作るつもりは毛頭なかったのではないだろうか。

 だが、映画に恐怖して泣き叫んだ子供たちの方が、実はクレームを並べた親たちよりも、この『파닥파닥』のテーマを正しく理解していたのかもしれない。

 死への諦観と生き延びる抗い、その相反する壮絶な戦いが、この『파닥파닥』には赤裸々に描かれており、それはまさに、韓国人の何事にも「파이팅」な姿勢の象徴かもしれない(時には、ハタ迷惑ですけどね…)。
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