Vol.173 チョ・ウンジ(조 운지)アクエリアスの女 [韓国俳優]
女優、チョ・ウンジ(조 운지)。
彼女は韓国のドラマに何本も出ているので、顔を見ればご存知の方は多いだろう。
名前は知らなくとも、ちょっと変わった顔立ちなのですぐわかると思う。
彼女のことを映画「フーアーユー」で初めて観てから、ちょっとだけ注目し続けている。
なぜなら、韓国ではあまり見かけない雰囲気の女優だったからだ。
「あまり見かけないタイプ」ということは、「韓国女性のイメージに沿っていない」ということで、キャスティング的に不利だとは思うが、彼女はデビュー以来、コンスタントに映画、テレビと活躍を続けている。
主演の映画もあるが、もっぱらバイプレーヤー専門だ。
最近だと「妻の恋人に会う」と「我が人生、最高の瞬間」が記憶に残る。
お水のオネエ系から普通のOL、アジュマが入ったおば系まで、役柄の守備範囲は結構広いが、毎カットの演技にエナジーを注ぐタイプなので、ちょっと芝居はクサいかもしれない。
でも、これは演出する側に依存する問題だろう。
また、脱ぐべき時はきちんと脱ぐ女優だ。
彼女がなぜ印象的なのかを、ひねくれた斜めの角度から考えてみる。
そして思い当たったのが、彼女の生まれが、2月10日生れのみずがめ座(=アクエリアス)である、ということであった。
もちろん、この韓国側公式生年月日はどこまで信用できるかわからないので、ホントは違うのかもしれないが、たとえそうであっても、チョ・ウンジは韓国女優の中で珍しい「気のエレメント」を漂わせる女優であることには変わりない。
イ・ヨンエ(이 영애>1/31生)やチョン・ドヨン(전 도연>2/11生)も太陽宮がアクエリアスだが、彼女らもまた、他の韓国人女優にはあまり見られない独特の雰囲気が共通して漂っている。
不思議なことに、韓国人俳優の生年月日を調べると、地のエレメント(おうし座、おとめ座、やぎ座)か水のエレメント(うお座、かに座、さそり座)に属する人が非常に目に付く。
そして気のエレメンツ(みずがめ座、ふたご座、てんびん座)が割と少ない。
日本の場合、気や火(おひつじ座、しし座、いて座)のエレメントに属する生まれの人が多いのだけど、韓国では、何か呪詛的バースコントロールでもしているのだろうか?
しかし、現代韓国で一番必要なのは、柔軟で聡明、機転の利く「気のエレメント」の持ち主かもしれない。
おそらくは今後とも、チョ・ウンジや、イ・ヨンエのように、「気のエレメント」の俳優たちが活躍する機会はもっと増えるのではないだろうか?
※ちなみに「뜨거운것이 좋아」に出ている조 운지は同姓同名の別人。
でも、結構可愛いかも(^^)
Vol.167 イ・ジョンヒョク(이 종혁) ぬりかべナイスガイ [韓国俳優]
ここ数年、バイプレーヤーとして頭角を現しつつある若手俳優に、イ・ジョンヒョク(이종혁)がいる。
映画は「シュリ」がデビューということになっていて、TVドラマにもよく出ている俳優だから、無名というよりも中堅の位置にいる俳優、といった方がよいかもしれない。
デビューは舞台、演劇界では若手として名を知られていて、固定ファンもおり、きちんとした公式ファンサイトもある。
それなりのキャリアがある彼だが、スクリーンでの演技を見ていると、うまいのか下手なのか、実はよくわからない。
なぜなら、パフォーマンスが地味で無表情、いつも、ぬぼ~としているからだ。
ルックスも、二枚目かというと、そうとも言いがたく、三枚目とも違う。
そして妙におっさん臭くなりつつある今、かっこいい、というよりも、味のあるキャラに変身中、といったところだろうか。
いわば、ぬりかべのようなイ・ジョンヒョクだが、目立たないようでいて、なぜかその存在が印象に残っていたりする。
「個性派」という形容は、演技が強烈とか、顔立ちが強烈とか、何か極端な要素を持ち合わせた場合によく付けられるものだが、彼のように、存在感はあるけれど「いるのか、いないのか」みたいな個性派は珍しい。
彼は「用意周到ミス・シン」でニヒリストのサラリーマンを演じていたが、これがとてもよかった。
無表情に「のぺっ」と突っ立っているかのようでも、目はいつも皮肉まじりに笑っていて、それが映画を面白くしている。
そういえば、二十代の頃の、チャ・スンウォン(차승원)も、こんな感じだったような記憶がある。
今では個性派大スターのチャ・スンウンだが、最初の頃は、TV時代の安っぽい二枚目イメージに引きづられ、三枚目としての持ち味をうまく発揮できないでいた。
イ・ジョンヒョクも昔の写真を見ると、基本的には二枚目の線だ。
でも、コメディ演技開眼できる機会があれば、大きくブレイクしそうな雰囲気を「用意周到ミス・シン」からは感じたのだった。
シン・ヒョンジュン(신현준)やパク・ヨンウ(박용우)がそうであったように、俳優イ・ジョンヒョクにとって、これから迎える三十台後半から四十台にかけてが、そのキャリアに大きな影響を与えそうな気がする。
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Vol.164 ジョン・チョ&グレース・パク /ちょいとオタクな夢の競演 [韓国俳優]
彼が演じるのは、あのヒカル・スールーの若かりし頃の役だという。
でも、ジョン・チョ(John Cho)って、ヴァルカン人役ならいざ知らず、どうみてもジョージ・タケイに似ていないし、雰囲気もまるで異なる。
果たして適役か否か、疑問ではあるのだが、『スタートレック』出演は、彼にとって大きなチャンスになるだろう。
ジョン・チョ(John Cho)は『アメリカン・パイ』ビデオ版続編などで、そこそこ顔は知られているらしいが、韓国でも日本でも、知ってる人はあまりいないだろう(最近は人種差別ネタてんこ盛りコメディ『Harold & Kumar 』シリーズでまたちょっと名をあげた)。
彼は韓国生まれ、アメリカ育ちというから、同じ韓国系の売れっ子、ダニエル・デイ・キム(Daniel Dae Kim)なんかと育ちが似ている。
二人を比較すると、ジョン・チョ(John Cho)の方が童顔だが、実は歳がけっこう近かったりする。
ちなみに彼の奥さんは日系アメリカ人の女優らしい。
もうひとり、『ウェスト32番街』には、韓国系カナダ人女優が出ている。
その名はグレース・パク(Grace Park)。
彼女はアメリカやカナダでは、ここ数年、けっこう有名なのだ。
彼女自身はアメリカ生まれだが、両親は韓国からの移民組、赤ん坊の頃にカナダに移住したので、国籍はたぶんカナダ(でも韓国側資料はアメリカになっていたりする)。
両親がきちんと韓国語教育をしたらしく、韓国語が使えるのが特徴だ。
その他にもフランス語が使えるようだが、カナダ育ちなので、別に珍しいことではない。
なぜグレース・パク(Grace Park)の顔が知られているかというと、SFドラマの傑作として名高い『バトルスター・ギャラクティカ』(新シリーズの方)に、第1話から重要な役でレギュラー出演しているからなのだが、そこで演じる彼女の役柄は、一昔前だったら日系か、中国系女優に振られていただろう特殊なキャラクターだ。
そして、そのビミョーな役割は、アメリカSFにおける、“異端&先進”を象徴する“アジア系”というアイコンそのもののようでもある(そういえばTV版『スターゲイト』にも端役で出ていた)。
キャリア的には、まだまだこれからの二人だが、これからの活躍には、ちょっとだけ注目したいと思う。
ところで、『ウェスト32番街』は日本でもお馴染みのスター、チョン・ジュノ(정준호)がゲスト的に出演している。
だが、北米圏の観客からすれば、彼はどこの誰やら素性の分らない俳優であり、逆に韓国の観客からすればジョン・チョ(John Cho)とグレース・パク(Grace Park)の方が、どこの誰やら知らない俳優だろう。
そこには、民族の出自が同じであっても、“韓国は韓国、アメリカはアメリカ”という現実が、皮肉にもよく出ているかのようだった。
こういう事例があると韓国のマスコミは“ハリウッド進出!”と大騒ぎだが、一番冷淡なのは当の韓国人だったりする(^^)。
民族主義的な大騒ぎがなくなった時こそ、彼ら韓国系俳優たちの、ホントの国際的な活躍が始まる時なのかもしれない。
Vol.153 オ・グァンノク(=オ・グァンロク) 貧相と美声のミスマッチ [韓国俳優]
NHKで「太王四神記」の放送が始まった。
私は基本的にTVドラマに関して吹き替え主義者なので、来年の吹き替え版放送を待つつもりだった。なにせ、NHKの韓国ドラマは吹き替え版が丁寧に作られていて、民放で垂れ流された、やっつけ仕事的なものとは明らかに違うからだ。でも、同じ韓国ドラマを二回三回観るのはきつい、拷問だ(^^!)。
そんなわけで第一話から観始める。幾つか気になる点があって、もう少し話数が進展してから、そのことは書いてみようとは思うのだけど、力を注いでいるベクトルがあさってに向いているような第一話だった。まあ、イベント・ドラマだから仕方ないか、と考えたりする。
字幕版で始まった「太王四神記」だが、オリジナル音声版で「得した!」と思ったことがひとつだけある。
それはヒョンゴ演じるオ・グァンノク(=オ・グァンロク)の特徴ある美声が聞けることだ。
「太王四神記」に出ていたのは意外だったが、彼もまた、今の韓国において、注目すべき「おっさん俳優」の一人なのだ。元々は舞台俳優だが、ここ数年ばかり映画やTVで活躍、巷でお馴染みのバイプレーヤーになりつつある。
ガリガリに痩せていて、とても貧相なところが個性的なのだが、その存在を忘れがたいものにしているのが、独特の語り口調。伸びの良い低音の美声が、ルックスとミスマッチでいい味を出している。韓国側の資料では1996年に映画デビュー、少し間をおいて、やはり2000年くらいから、色んな映画に出ずっぱりになっている。日本でメジャーな作品だと「私たちの幸福な時間」の死刑囚役が記憶に新しいと思う。
私がこの俳優に魅力を感じるのは、今の若手にはない、昔からの韓国的ルックスを色濃く持った俳優だと思うからだ。1961年生まれ(1962年という資料もあり)なので、まだまだ暮らしが厳しかった頃の韓国、というものをどこかに漂わせているからかもしれない。演じる役柄はあまり一定していないのだが悪役は全然合わない。悪役を演じても全然説得力がない(^^)
彼は「吸血刑事ナ・ドヨル」において、オカルト専門のピオ神父を演じていたが、現時点ではメジャー作品における一番のはまり役だったと思う。「吸血刑事ナ・ドヨル2」には全然期待していないけど、オ・グァンノク(=オ・グァンロク)演じるのピオ神父だけは、キム・スロ演じるナ・ドヨルなんかよりも、大暴れして目立って欲しいと思うのだった。
ちなみにオ・グァンノク(=オ・グァンロク)は、「セブンデイズ」で仁義と利益の狭間でちょっと悩むヤクザの親分を演じた。
しかし 、「오광록」 って、発音しにくい…
Vol.144 ユン・ジェムン 新星登場 [韓国俳優]
韓国を一時熱狂の渦に巻き込んだ、映画バブルがもたらしたものの一つが、韓国内スターの不足と、それを補填する新しいスターの発掘だった。
映画の本数が増えるにつれて、主演級の俳優たちが明らかに足りなくなり、それをチャンスにしてスターの座を掴んだ個性派&演技派の代表がイ・ムンシクとイ・ボムス、オ・ダルスやソン・ジルだった。
こうした脇役から主演級への移行にともなう、脇役不足の問題は、演劇界の中堅がそれを補うことで、新人が映画界で活躍する機会を増やしたが、お馴染みのバイ・プレーヤーを実質失ってしまった、というマイナス面ももたらした。
俳優ユン・ジェムンも、そんな中、新たな名脇役として登場した新星の一人。
映画デビューは2000年くらい、メジャー作品で本格的に活躍するようになったのは、ここ二、三年。
しかし今現在、とにかく、大小さまざまな韓国映画で引っ張りだこになっている。
私が最初に強く印象づけられたのは、ムン・スンウク監督の「ロマンス」だった。
最初は悪役系が多かったが、2007年の「肩ごしの恋人」では、優しすぎるヒロインの夫を好演、これから日本でもある程度、彼を記憶に留める人はいるだろう。
ユン・ジェムンは、1970年の生まれ、演劇界では既に活躍していた、いわば中堅俳優といってもいいのだけど、世間一般では認知されていなかったから、映画では新鮮で、とても目立っている。
どこか腹黒く、ワルっぽい中年男性をやらせたらよく似合う人物だが、何気で色々な役をこなせる俳優でもある。
彼が今後、イ・ムンシクのような大スターになってしまうか、アン・ネサンやチャン・ヒョンソンのような微妙なポジションにつくかは、もうしばらく経たないとわからない。
でも、悪い意味での映画バブルが既に終わってしまい、関係者がこれからどうしよう??と右往左往している最近の韓国映画界において、ユン・ジェムンのような俳優こそ、本領発揮の場が増えそうな気もする。
俳優という職業は、スターになると、可能性という点では逆にチャンスを失ってしまうことも起き得るわけで、ユン・ジェムンには、妙にスターになるよりも、今の路線をずっと貫いてほしいとも思うのだった。
Vol.136 アン・ギルガン、なつかしの面影 [韓国俳優]
俳優アン・ギルガン。
彼の名前だけ聞いて、即誰だかわかる人は、韓国でもあまりいない。
しかし、ここ十年、韓国映画の中堅バイプレーヤーとして大活躍している俳優だ。
日本では「ウォンタクの天使」のやる気がない、げじげじ眉毛の天使を演じていたオジサン、と表現すればわかるかもしれない。
彼はリュ・スンワン作品に全部出ているというが、私も実は指摘されるまで全く気がつかなかった。
あえて心当たりのある役といえば、「相棒」で演じた事件の発端となる飲み屋のマスター役くらいだろう。
でも、なにか脳裏に焼きつく個性を持った俳優であって、格別好き!とか格好いい!とか決して思わないが、映画に出ているのを観ると嬉しく思ってしまう一人でもある。
役柄はかなり幅広くて、田舎のヤクザからSWATの隊長、映画監督にゲイと、様々だ。
だけどルックスは星一徹。
かなり強烈な顔立ちなのだが、カメレオンのように作品に溶け込んで、なぜだか目立たない演技力の持ち主でもある。
私が彼に引っかかってしまうのは、その顔立ちなのだろうと思う。
かつて日本には、こういう顔立ちのおじさんが必ずどこにもいた。
だけど、最近はめっきり減ってしまったタイプの、おじさんなのだ。
俳優アン・ギルガン。
角刈りに着流し、それもまた似合いそうな俳優だ。
Vol.122 「サラン」大変身!チュ・ジンモ [韓国俳優]
なぜかというと、今まで映画の中で彼を観ていた限りでは、その存在が全く印象に残らない上、演技も誉められたものではないからだ。
唯一記憶に残っているのは『武士』で演じた“バカ将軍様”くらい。
実力も経験もなく、だけどプライドだけは人一倍で、いつも周りを危機に陥れかねない言動を繰り返すこの役だけは、妙に説得力があって、今でも記憶に強く残っている。
最近では、誰も観ていない『パズル』と、大ヒット作『美女は辛いよ』に出演しているが、『美女は辛いよ』では、彼が出ていたことを、皆忘れているのではないかと思うくらい、その影は薄かった。
そんな訳で新作を見てもその存在を忘れてしまう、俳優チュ・ジンモだったのだが…
しかーし。
2007年9月19日に韓国で封切られた『愛/サラン』での彼は、まさにこの掛け声がふさわしい存在感と演技を披露し、本当にびっくりさせられた。
映画『チング』の、ワンパターン劣化コピーにも見えるが、実はかなり違う印象を受ける内容だ。
お話自体はワンパターンでも、人の情感をきちんと、そしてしっとりと描いた、韓国版田舎の“ロミオとジュリエット”になっているといえるだろう。
この作品で主人公イノを演じたチュ・ジンモは本当にいい。
いままでの、半端なイケメンイメージを完全にかなぐりすてて、田舎の冴えない乱暴なあんちゃんを熱演、好演しているのである。
セリフは多くないのだが、ふと垣間見せる表情にとても含みがあるし、彼最大の欠点だった“動きガチガチ、セリフ棒読み”も相当改善された。
その代わり、ヒロインのミスに全然魅力がなくて、“なんでこんな女に??”という疑問の方が観ていて、ぐるぐると最後まで頭の中を廻り続けたが、それもまたチュ・ジンモ演じる、粗暴な田舎のあんちゃんの、熱烈な純愛ぶりを際立たせる。
この『愛/サラン』でも、クァク・キョンテク監督『慶尚南道シリーズ』、いつものお約束である、中年高校生役が、もちろん登場するが、『チング』が、お笑い『ガクラン八年組』だったとのは違って、老けてはいても、坊主頭に高校名が入ったジャージ姿のチュ・ジンモは、けっこう格好よかったりする。
『魁!男塾』くらいまでは、いった感じだ(^^)
この『愛/サラン』、出来の良し悪しは別としても、チュ・ジンモのファンなら必見の作品だし、彼をなめていた人にも是非お勧めしたい。
俳優が化ける一瞬、という貴重な機会を、この『愛/サラン』は観客に与えてくれるのだ。
なぜ、この映画でチュ・ジンモがこんなにいいのか?それは謎だが、たぶんクァク・キョンテク監督との相性が物凄~く、よかったからではないか。
どのカットもチュ・ジンモの魅力(ただし『愛/サラン』限定)を的確に捉えているし、彼もまたそれに十分答えている。
今までチュ・ジンモは、半分忘れかけていた完全ノーマークの俳優だったが、これからはその動向をちょっと見逃せない気がする。
クァク・キョンテク監督との組み合わせが彼をこんなに輝かせるなんて意外だったし、韓国の観客もまた同様だったのではないだろうか。
ぜひ、一発花火にならないことを祈りたいと思う(^^!)
Vol.111 「おかあさんは死んでいない」/河明中氏の思い出 [韓国俳優]
韓国の俳優、ハ・ミョンジュン。
こう書くと大半の人は誰のことやら思い浮かばないかもしれないが、「河明中」と書けば、心当たりのある人は結構いるのではないだろうか。
彼は1970年代、韓国のTVや映画で二枚目として引きもきらない活躍をしていた、当時の代表的な韓国の人気男優といっていいだろう。
そして不遇の天才監督して今も名を残す故・河吉鐘監督の実弟としても知られている。
彼が日本において俳優として監督として、単独で評価・認知されたことはほとんどないが、イム・グォンテク監督の「族譜」主人公の日本人青年を演じていた俳優といえば心当たりのある人はさらに増えると思う。
俳優から映画監督に転進し幾つかの作品で高い評価をおさめた後、映画の製作や配給事業を手がけて成功し今に至っている。
その河明中氏が映画監督としては16年ぶり、俳優としては23年ぶりに「おかあさんは死んでいない」で韓国の映画館に戻ってきた。
映画そのものは昔懐かしき韓国映画そのままなので今の日本でも韓国でも受けるような作品ではないが、画面の隅から隅まで丁寧な美しさに満ちていて、最近の韓国映画に一番欠けているものが、ところどころキラキラと輝いている。
今を去ること約十五年ほど前、筆者は河明中氏にソウルで会った想い出がある。たぶん筆者が韓国で直接会った最初の有名な韓国映画人だろう。
ことの成りゆきは格段特別なものではなく、知人の「韓国映画のPDに会わせてやる」という一言にノコノコついて行ったら、そこが河明中氏の会社だった。
「族譜」はすでに日本で観ていたから河明中氏の名前は知らなくとも顔はなんとなく覚えていた。それに河吉鐘監督の名前は当時の日本でも知られていたから、その弟でトップ・スター兼映画監督と聞かされて「なんだか凄いなぁ」と無知な筆者は圧倒されているだけだった。
当時、氏の会社があった江南某所は辺り一面工事中で埃が沢山舞っていたことだけが記憶に強く残っている。
近所の食堂でカルククスとヘイムル・ジョンをご馳走になる。
その時、彼から興味深い話を聞いた。
かつて二枚目で活躍していた頃、数ヶ月だけではあるけれど日本語の勉強をするために日本の某大学にある日本語講座に通っていたという。
韓国のトップ・スターが日本に留学していたなんて、その時は初耳だったので驚いたが、そういう人は意外にも何人もいた事をその後知る。
さらに驚くべき話が続いた。
留学当時、日本の某映画会社から映画出演のオファーが河明中氏にあったというのだ。
ただし、これには条件があって韓国人ではなく日本人として売り出すことが前提だったという。
だから河明中氏はこの話を断ったが、なんとも因縁を感じる奇妙なエピソードだなぁと思った。
その後、彼とは会っていないが「おかあさんは死んでいない」で楽しそうに初老の作家を演じている河明中氏を観ていたら、機会があればまたお会いして今度はお酒でも一緒に飲みたいなと、映画とは別のところで何かジーンと来てしまったのだった…
Vol.108 復活のキム・イングォン [韓国俳優]
キム・イングォンという俳優がいる。
1978年生まれだから、韓国式にいえば30歳、まだまだこれからの俳優だ。
芸暦は結構長くて、一応、日韓合作第一弾となっている「愛の黙示録」(1997年 監督 金朱容)がデビュー作らしい。
彼はずっと脇役専門の俳優であり、見かけは正直、かなり不細工だ。
しかし、優れた演技力と印象に残る個性力、仕事への真面目な性格が色々なところで評判を呼び、韓国では評価が高い若手バイプレーヤーの一人である。
彼はお笑い演技をやらせると天下一品なので、そのルックスと共に誤解されがちだが、本人はとにかく真面目でお堅い性格らしく、ギャグ演出をなかなか理解してくれないという。
そのキム・イングォンが兵役を終えてスクリーンに帰ってきた。
正確にいえば、TVの方が先だったのだが、現在上映中の2作品「マイファーザー」と「二つの顔を持つガールフレンド/こんにちは、アニ」に重要な役柄で立て続けに出演し、両作品のダメな部分を、誠実な演技で大きく支えている。
彼が兵役についたのはちょうど、韓国や日本が「韓流スター徴兵ごまかし事件」で大騒ぎをしていた時だ。
その時分、既に徴兵年齢を過ぎているにも関わらず、徴兵命令がこないことを彼は非常に気にしていて、世間が「韓流スター徴兵ごまかし事件」で大騒ぎをしたことをきっかけに、自ら志願して軍隊に入ったらしい。
そして選んだのが、訓練が厳しくて韓国人男性から嫌がられている「戦闘警察」だった。
ここは「警察」とは名が付いていても、管轄は軍であり、実際に韓国が戦争状態になった場合、市街戦の先頭に立って戦わねばならない厳しい部署なのだ。
それから約二年後、遂にキム・イングォンが芸能界に帰ってきた。
もともと注目を浴びていた俳優だったから、即TVドラマのレギュラーを射止め、立て続けに映画に出ている。
厳しい軍隊生活のためか、すっかり痩せて精悍になった彼だが、演技的には、昔の器用さ、柔軟さがなくなり、ゴチゴチで真面目一徹になってしまった感じだ。
その変わりぶりを見ていると、軍隊生活が俳優としての人生にマイナスにならなければ、とちょっと心配してしまうのではあるが、そういった影響が抜けて、再び彼ならではの魅力を取り戻してくれることを、今後期待して見守りたいと思う。
一刻も早く、シャバの空気に馴染んでほしいものである。
Vol.75 パク・シニャン、メガネの貴公子 [韓国俳優]
ソウルのホテルで「銭の戦争」最終回を断片的に観る。
なぜ断片的かというと、全く興味がないから。
でも、このドラマに出ているクム・ナラ(「お金の国」っていう洒落かな?)演じるパク・シニャンを観ているうちに、彼って、今の韓国では実は数少ない、本格的な個性派スターなのではないかと、いまさらながら考え始める。
彼は二枚目でも三枚目でもない。
演技派か?といえば、そうでもないが、かといって下手なわけではない。
演技スタイルはかなり癖があって、嫌いな人は嫌いだけれど、当人はそれをわかってやっていて、あえて精進し続けているような気がする。
要は、一方的なカテゴリー分けができない俳優なのだ。
少し前まで、韓国の男優といっただけで、よく知りもしないのに激しい拒絶反応を示す日本人が、実は結構いた。
それがいつの間にか、いい男ばかりいる国、という別の偏見にすり替わり、特定の熱心なファンを生み出したが、特定のスター以外は、どうでもいいことになってしまったような気がする。
今の韓国は皆の好みが細分化して、「スター」がいっぱいだ。
逆に日本における「韓国のスター」というものは、どんどん狭くなっていっているのではないか。
だけど、韓国は元々小演劇が盛んな国だから、男も女も、個性的で魅力的な俳優が実はたくさんいる。
単に商売にならないから、日本企業は彼らを紹介しないだけなのだろう。
そういえばパク・シニャンも某TV局が中心になって、日本でちょっと売り込もうとしたことがあったけど、世間の反応は冷たかった、という記憶がある。
かつて筆者はクォン・ヘヒョの招聘を日本の会社に提案したことがあった。
でも会社の反応は鈍い。
「…だって、マスコミが来なかったら、かわいそうでしょ。日本では誰も知らないから」
でも「冬のソナタ」大ヒット後の、彼の扱いは知っての通り。
まあ、それはいいけど、パク・シニャンは、事前にそれなりに有名であっても、日本のアイコンにはならなかった。
でも、逆にそれでよかったのではないかと思う。
最近のパク・シニャンは、とっても味があって魅力的に思えることが多くなった。
実は彼、けっこう何を着ても似合う俳優であることにも気が付いた。
かつてのパク・シニャンは端正なスーツがユニフォームみたいなところがあって、実際、紳士服メーカーのアイコンをやっていたこともあったが、「銭の戦争」では例の韓国カジュアルで通している。
それが格好よいかどうかは別だけど、彼はきちんとそのラフなファッションを着こなしていて、それが結構似合っている。
彼の年齢で、こういった服装を着こなせる韓国の俳優は、まだまだ少ないと思う。
でも、彼最大のポイントは、やはりそのメガネだろう。
パク・シニャンほど、それをチャームポイントにして成功しているスターもまた珍しい。
だから「達磨よ、遊ぼう!」では、彼がメガネを外した姿が売りになったりする訳だ。
考えようによっては、たいした自己演出力である。
筆者はパク・シニャンの格別な支持者でもなんでもないけれど、海外での安易な人気に頼らない韓国の韓国人スターとして、これからもその活躍を見守りたいと思う。